第64話 この外道が!

 アッハーン!


 天王寺さんがドアをイカせた声が合図だった。


 バン!


 天王寺さんの意思に反応して、ドアが開いた。

 飛び込む俺たち。


 中はちょっとした大広間。

 椅子が一脚あり、そこに人が集まっていた。


 椅子に腰かけているのは、角刈りの中年太りした脂ぎった糸目の男。

 そしてその周りに、取り巻きと思える男たち。


 ……多分あの糸目だよな。


「サーディンランブラスト!」


 俺は開幕で大阪スキル技を繰り出す。

 精神的優位に立つのは大事だ。


 俺の手から輝くイワシの奔流が、糸目のデブ男に殺到する。


 糸目男は俺たちの大阪スキル発動に気づいていたのか、硬直は無かった。


 冷静に


「大阪スキル発動ォ!」


 両手を大きく広げて発動を宣言する。

 ……さすが義兄弟。

 多古田と大阪スキルの使用方法が似ている。


 そして……


「リフレクトフライ返し!」


 バッとその両手を、俺のサーディンランブラストを遮るように突き出す。

 その瞬間、その手の前に巨大なコテが出現し、俺のサーディンランブラストを弾き返すように動く。


 すると、俺のサーディンランブラストの矛先が、糸目男から俺自身に切り替わった!


 俺はそれに備えて膝をたわめていた。

 真横に跳んで、くるりと受け身の様なものをとる。


 俺の立っていた位置を、イワシの奔流が行き過ぎて行く。


 そして


「……多古田のブタのようにはいかないか」


 そう、大きな声で言ってやった。

 こういうときは、相手の平常心を失わせることが大事なんだよ。


「……多古田にぃのことを知っている……てめえ、元従業員の奴隷か!」


 糸目……男児野がその糸目を限界まで見開いて睨んでくる。

 その目には良心の欠片も無い。紛れもない邪悪の光がある。


「そうよ! 私とケンタさんとで倒してやったんだ!」


 なっちゃんも一生懸命挑発に参加。

 らしくないけど、頑張んないとね。


 ガンバレ、なっちゃん。


 俺はエールを送った。


 すると


「……飼って貰った恩を忘れやがって……この外道が!」


 ……俺は思わず鼻で笑ってしまう。

 クソすぎて、怒る気が起きなかった。


「たこ焼き屋をやりたいという理由で、女の子を泡に売るとか言ったゴミによくいうよな」


 ……まあ、昔から無駄に度胸だけはあるよな。俺。

 喧嘩は弱かったけど。


 だから毎回ボコられてて……


 そんな過去を回想しながらの俺の発言に


「ウルセエ! 女1匹どうこうしたくらい何なんだ! たかが女1匹だろう!」


 激高。

 良い感じでブチ切れている。


 そんな男児野に


「……お前のような男を、この地獄の大阪から全て消すのが僕の望みだ」


 谷町さんが手の上に1個の餃子を乗せて。

 そう、己の思い描く理想を口にする。


「ぬかせガキ! ガキは家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶってろ!」


 激高した男児野の言葉。


 ……谷町さんは奥さん相手にそれ以上のことをしてるんだけどな。

 5回も。


 なんて、どうでも良いことを考えながら。


 俺は自分の膝をまっすぐに伸ばした。


 ……それを、男児野は見逃さなかった。

 俺相手に、右手を向けてくる。


 そして


「白米キャノン!」


 その手から噴き出す炊き立てごはんの奔流。

 お好み焼きと一緒にごはんを食べるのは大阪人のデフォなので、そこからの大阪スキル技。

 事前に知ってたんだよ。


 ……聞いてたからね。


 これ、着弾するとつきたての餅に変化して、被弾した相手を拘束するんだよね。

 で、そうなった相手を「コテブレード・格子斬り」でサイコロステーキにして仕留める。

 それがこいつの黄金スタイル。


 そう、聞いていたんだ。


 だから……

 そっと、膝を伸ばして回避行動を忘れていることを演出したのよ。


 ……このために。


 俺の前に、谷町さんが割り込んでくる。

 この技を発動させながら。


支配の餃子キングギョウザ!」


 支配の餃子キングギョウザ……餃子に自分の大阪スキルで包み込んだものを、自分の臣下として取り出す谷町さんの大阪スキル技。

 谷町さんが自分の大阪スキルで、この餃子に包み込んでいたものは……


 全体的なフォルムは、熱帯雨林のジャングルに生息してそうな鳥のオオハシ。

 大きさもそれぐらい。

 色はピンク色。


 道頓堀に生息する、ペットとして高額で取引される大阪生物。


 ヒャクシタ鳥。

 それが谷町さんの手の上に現れる。


 この鳥は面白い特殊能力がある。

 声真似がものすごく得意な鳥である。

 それ以上の特殊能力。


 それは……発声を伴う大阪スキル技のコピー。


 そしてこの、谷町さんの臣下として取り出されたヒャクシタ鳥が現在覚えている大阪スキル技は……


「リフレクトフライカエシ!」


 その瞬間。

 谷町さんの前に、巨大なコテが出現した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る