第63話 義兄弟

「天王寺様、梅田様、そして皆様がた。もうすぐ到着至します」


 運転手として残した男1人にハイエースを運転させて。

 俺たちは廃業したラブホみたいな建物にやってきた。


 ……うーん。

 ど田舎の山道にポツンとあるラブホが廃業してるってのは納得なんだけど。

 何でこの淀川区のど真ん中にあるラブホが潰れているんだろう?


「あれ、ラブホですよね? 潰れてるみたいですけど」


 そう、谷町さんに訊く。

 すると


「違うよ」


 ……え?


 谷町さんの意外な答え。


 どうも、谷町さん曰くあれは……


 元・奴隷生産工場。


 らしい。


 それを犯罪仮面が潰したそうな。


 ……なるほど、そっか。


 俺はそれ以上聞かなかった。




「じゃあ、先にあなたたちのボスに、私たちがご挨拶に伺うという話を丁寧に行って、足止めお願いね。……あと、道中に印を残していくように」


「御意」


 命じられた男は周囲の石を何個か拾って。

 タタタタ、と。

 先に元・奴隷生産工場に駆け込んでいく。


 ……あいつ以外は全員、比較的治安のいいこの淀川区で、何か自分でも出来る他人を助ける仕事を探して就職してこい、と言ってリリースしたんだけど。

 あいつは大丈夫かな……?


 裏切りがバレて、処刑されたりはしないだろうか?


「……まあ、私の大阪スキルのことを知り尽くしているなら、そもそもあの拉致自体無いでしょ」


 だから裏切りはバレないと思う。

 多分だけど。


 そう、天王寺さん。


 ……まあ、ここで100%を求めるのは厳しいか。

 相手、クズどもでも組織だしな。


 こういう手を使わないと、難易度爆上がりするしなぁ……。


 男が入って行った玄関から俺たちは入っていく。

 あの男が気をつけろと言って無かったし。

 罠は無いハズ。


「確か、やつらのボスの大阪スキルはお好み焼きなんですよね」


「直接言及は無かったらしいけど、恐らくそうだね」


 天王寺さんと谷町さんが歩きながら会話する。

 これから戦う相手について。


 やつらのボスの名前……


 男児野宮紀おこのみやき

 やっぱり、大阪落人。


 犯罪の動機は「犯罪仮面を倒し、伸び伸びと犯罪できる淀川区にしたいから。いわばこれは世直し」

 ……どんなんだ。


 あと……


「まさか、前の店長と義兄弟の契りを交わした人物だとは……」


 なっちゃんが、信じられないですよね、と言いたげな口調でそう言った。

 ……俺たちの前の主人だった多古田の、弟分だったらしい。


「前のボスは、酒に酔うと『俺のアニキである多古田にぃは中央区で、飼い犬に手を噛まれて殺された! 許せねえ! いつか、絶対に勝てる確信が持てたら復讐をしてやる!』って言ってました」


 この話を聞いたとき。

 妙な因縁を感じたよ。


「あ、目印の小石がありました」


 なっちゃんの言葉。

 ちゃんと、分かれ道が来たら目印の小石が置かれてる。


 ……天王寺さんの支配はきっちり掛かってるな。


 そして。

 何度か階段を上がり。


 少し大きめの扉の前にやってきた。


 この向こうに、問題の人物……お好み焼きの大阪スキル使い・男児野がいる。


 俺たちは顏を見合わせる。

 ……よし。いくか。


 俺たちは頷きあって。


 天王寺さん以外が、未発動の大阪スキルを発動させた。


「大阪スキル発動します!」


「大阪スキル発動-ッ!」


「大阪スキル……発動!」

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