第62話 流れるように

 2人が50メートルほど歩いたときだった。


 キキーッ! とハイエースがぶっ飛んできて。

 中からわらわら目出し帽の男たちが降りて来た。


 ……ぱねえな。治安。


 男たちは天王寺さんたちを取り囲み、アイマスクを無理矢理つけて、ハイエースに引きずり込もうとする。

 ご丁寧に「撮影中です」ってプラカードをあげながら。


 ……テレビ番組なんてこの地獄の大阪にねぇだろ!

 誰だよこんなイミフの入れ知恵したヤツは。

 内心そう、ツッコミを入れながら


 ……ここで、俺はハッとした。


 そっか……


 これはこれの黒幕が大阪落人であるということの証……!


 大阪落人でなければ、拉致を「撮影中」で誤魔化そうなんていう悪知恵は思いつかない……!


 この拉致を計画した奴。

 念には念を入れたつもりなのかもしれないが、とんだ墓穴を掘っている。

 ここで、俺たちに「大阪スキル使い」との戦闘を覚悟させる機会を与えてしまったんだから。


 ……敵がマヌケで助かった。


(谷町さん。この件の黒幕は大阪スキル使いです)


 俺は隣にいる谷町さんにそう囁く。


(……何から判断したのか僕には分からないんだが……キミが言うなら信じるよ)


 谷町さんのその言葉に。

 俺は感じ入るものがあった。


 ……信じて貰っている。




 天王寺さんとなっちゃんがハイエースに連れ込まれ。

 そのまま発進。


 俺たちは少し離れたところに停めていた普通自動車を発進させる。

 発信機を2人につけているので、それで追跡だ。


 ……運転するの、久々なんだが、多分大丈夫だろ。

 これ、AT車だからな。

 ゴーカートには何回か乗ったし。免許取った後に。


 ……多少交通違反しても、それを捕まえる交通警察が居ないからな。

 ペーパードライバーであることの不安、そんなに気にしなくて良いよね。


「谷町さんは後ろに気をつけてくださいね」


 ……ひょっとしたら、俺たちが尾行されているかもしれないし。

 狩る側だと思っていたら狩られる側でした、というのは避けたい。


「ああ、分かった」


 谷町さんのその言葉に、俺は運転と追跡に集中した。


 そのときだった。


 アッハーン!


 ……目の前のハイエースがよがり狂った。

 その喘ぎ声が、車内の俺たちにも聞こえてくる。


 なるほど……


 俺たちはブレーキを踏んで。

 手配した普通自動車を停車させた。




「流れるようにリカちゃんが」


 なっちゃんが興奮気味の様子でそう捲し立てた。

 目出し帽の男たちは、ズボンを脱いでパンいちの姿で立ち尽くしている。


 ……天王寺さんはハイエースの内部で手錠を掛けられる前に


「大阪スキル発動!」


 素早く電動こけしを呼び出して。


三つ目の膝ザ・サード!」


 言いつつ、まずハイエースをよがらせて下僕にし。

 下僕にしたハイエースに車体を変形させ、内部の男たちを全て拘束。


 ……普通、いきなり乗ってる車がイカされて女子高生の言いなりになるなんて考えんよな。


 天王寺さんの言いなりに、ぐにゃぐにゃに変形したハイエースの車体に拘束された男たちを、天王寺さんは


 ……全く躊躇わず、男たちのズボンをよがらせることで全て脱がせて。

 パンツも同様。


 メス堕ちしたハイエースに命じて、男たちに足を開かせて


 ……その肛門に電動こけしをねじ込んで行ったそうな。


 アーッ!




 で、こうなった。

 ……うん。慣れたもんだな。


 もう、一人前の大阪スキル使いだよね……天王寺さん。


 こいつら、どうなるんだろうな?


 今後、天王寺さんの大阪スキルの影響下から脱することがあっても。

 女子高生にパンツ脱がされて電動こけしでアヌスを犯された事実は変わらんわけだし……


 心なしか、こいつら泣いてる気がするんだが……


 そんなこいつらを他所に


「この人たちに案内させて、誘拐犯を一網打尽にしましょう」


 天王寺さんは力強く言い放つ。

 選択としてはおそらくベスト。


 ……この子、ここに来なければきっと将来それなりの人物になったんだろうなぁ。

 俺はそう、なんとなく思った。

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