第61話 ハイエースは監禁ワゴンカーだからな(おい)

「ハイエースで一気、だ」


 ハイエース……犯罪あるあるだよな。


 谷町さんの話からすると。

 夕方に道路を歩いていると、通行人が目出し帽の男たち数人に捕まって。

 ハイエースに引きずり込まれる事例が多発しているそうな。


 狙われるのは主に女性。


 たまに、若い男も狙われる。


 ……まあ、女性メインで行きたいけど、男性も狙っておかないと女性が誰も外出しない状況になりかねないし。

 犯罪としては正しいのかね。


「どこに連れていかれているか分かってるんですか?」


 そう、なっちゃんが訊く。

 すると


「残念だがまだそこまでは分かっていない」


 そう、頭を振りながら谷町さん。


 そっか……そこからなのか。


「防犯カメラってある……わけないわよね」


 うん。

 俺もそう思う。


 この地獄の大阪で、防犯カメラなんて……。

 ありえんよ。


「目的は……」


「そりゃ、人身売買だろうね」


 なっちゃんの追加の質問に、谷町さんの言葉。


 うん。俺もそう思う。


 ……さて。




 そして。

 淀川区にやって来た。


 俺たちは4人で考えて。

 出た答えは「なっちゃんと天王寺さんに囮になってもらう」

 これだった。


 ……これしか出てこないのがなんとも情けないけど。


 谷町さんに女装してくれとは言えないし。


 無論俺なんか、とでも無理だしな。


 ……女の子に危険な目を押し付けるのは……感情的に抵抗がある。


 だから


「……なんか大変な目を押し付けてばっかりだな」


 俺がそう言うと


「北区では、奴隷役を引き受けて下さいましたよね」


「気にしなくても良いですよ。これが一番理に適っているんですし」


 そう、本当は不安だろうに、彼女らは笑顔で許してくれた。




 そして


「商品価値の高い女性だと思わせた方が良いから」


 そう言い、谷町さんが俺たちを自宅に連れて来て、自分の奥さんの手持ちの服を貸してくれた。

 谷町さんが「彼女らに服を貸してあげてくれないか? 僕の仕事の手伝いをしてくれるんだが、適当な服が無いんだ」って言って。


 で、「詩織と凛子が体格が近いと思う。頼む」と具体的指示。


 ……11才なのに、こういうのがスッと出てくるのな。

 嫁を複数持つ男の在り方って、こういうのなんかね。


 ……活用はできんし、する気も無いけど、男としての在り方は真似したいとは思った。俺は。

 この、14才年下の人生の先輩に対して。


 で、元気印なショートカットのお嫁さん……谷町詩織さんが「分かりました。どうせ今は着れませんし。任せて下さい」と言って天王寺さんを連れて行って。


 落ち着いてるけど、小柄な女性……谷町凛子さんがなっちゃんを無言で連れて行った。夫に一礼した後で。


 うーん……すげえ家。




「ナツミ、良く似合ってるわよ」


「リカちゃんも大人っぽい感じが良いよ。……今度はこういう服を買いたいね」


 ふたりとも、違う服が着れて嬉しいのか、喜んでいる。


 二人とも、涼し気な、夏の日差しに似合う爽やかな格好だ。

 スカート。


 ……うん。

 これは犯罪者が放ってはおかないぞ。


 俺は2人を見て、嫌な確信を得た。


「……じゃあ、よろしく頼むね」


 俺の言葉に、2人は頷く。


 俺も精一杯サポートするから。

 ホント……頼むね。

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