第11話 大阪スキル使い

 ちょっと待て……ちょっと待て……


 梅田さんを泡に沈めるだと?

 真面目に働いていてる梅田さんを?


「え、えっと……」


 梅田さんは震えている。

 真っ青だ。


「店長……私はあなたにご奉公してきたと思うんですが……お役に立ててませんでしたか?」


 そう、震え声で言った。

 俺の目から見ても、梅田さんの仕事は問題なかったと思う。

 なんでもやったのに。


 このクソ野郎の食事の世話もしたし、道楽蟹狩りにも行くし、店番だって完璧にしているのに。

 言葉遣いも完璧だったはずだ。

 クソ野郎でも、雇い主に向ける信頼だってあったはずなのに。


 それなのに……どういうことだよ……?


 だけど、このクソ野郎は、ゲヒゲヒ笑いながら


「……おで、この万屋辞めてたこ焼き屋を開くのが夢だったんだぁ……そのための設備を揃えるお金が、お前を泡に売れば貯まるんだぁ」


 たこ焼き屋……たこ焼き屋をやるために、梅田さんを泡に売るのか!?


 ふざけてる……


 俺は震えた。


「そんな……その分、私、働きますよ……?」


 青くなって必死で懇願する梅田さんに


「たこ焼き屋でお前は不要だぁ。別のスタッフにするだ。心機一転だぁ」


 ……梅田さんをアイテムか何かだと思ってやがる……このクソ野郎。

 許せない……


「そんな……!」


 梅田さんは泣き出した。

 堪え切れなかったのか。


 クソ野郎はさらに続ける。


「あ、安心するだ。キチンと性病のワクチンを打ってくれる泡に売ってやるだ。……もっとも、副作用で女の機能が低下して子供が出来にくくなるだが」


 ここで俺の限界が来た。


「このクソ野郎ー!」


 俺は拳を握り締め、店長に飛び掛かった。


 そのとき、同時に。

 両腕を広げてクソ野郎が宣言した。


「大阪スキル発動だぁ」


 その言葉が発されると同時に。


 俺の前に、灰色の壁が出現する。

 俺の繰り出したパンチは、その灰色の壁にプルン、と受け止められた。


 プルプルした、灰色の壁。黒い斑点が散りばめられている、弾力のある壁。

 これは打撃ならばどんな強烈な一撃も、すべて無効化してしまいそうだ。


 な……!


 俺は混乱していた。

 このクソ野郎……こいつも大阪スキル使いだったのか!?


 クソ野郎はニヤリと笑いながら、俺にこう言った。


「おでの大阪スキルは食べ物系……たこ焼きだぁ。どうだ、恐れ入ったか?」


 そしてこう言った。

 この灰色の壁は蒟蒻シールドだ、と。


「……たこ焼きになんで蒟蒻が出てくる?」


 俺はこのクソ野郎の言動に納得がいかなかったので、そう問いただす。

 すると


「お前、知らねえだか? ……異様に安い天下茶屋あたりのたこ焼きは、蛸の代わりに蒟蒻を入れてるんだぞ……?」


 ……なるほど。

 そういうスキル解釈もあるんだな。


 まあ、そんなことはどうでもいい。


 ……ただでさえ、俺は喧嘩が弱い。

 それなのに、相手が大阪スキル使い……!


 絶対に負けられないのに……!

 どうすればいいんだ……?

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