第30話 決断する少女
道頓堀……大阪で一番危険な場所。
さっき居た淀川だとか、通天閣の有る浪速区は比較的治安が良いから、飲み屋なんてものが成り立つんだけど。
俺たちの店がある中央区、特にこの道頓堀はほぼ無法地帯だから。
特にこの、道頓堀は危険極まりない。
狩りをする目的が無いなら、死体を捨てたり、生ごみを捨てる以外は近づきたくないし。
こんな魔物の巣みたいな場所。
で、今俺たちは道頓堀川の上にいる。
「……確か、10秒以上川を見つめると、飛び込みたい衝動が湧いてきてどうしようもなくなるんですよね」
なっちゃんがそう、知ってる道頓堀川の知識を口にした。
……知ってるはずなのにな。
川に、肉食の恐ろしい大阪生物が生息しているのに。
川に飛び込もうだなんて。
だからまあ、ここに初めてくる人は、経験者にこう注意される。
……道頓堀川の橋を渡るときは、絶対に下を見るな。
「……で、どうするんですか?」
天王寺さんが、人任せな言葉を放つ。
珍しいね……まあ、理由は予想できるけど。
……大阪スキル、使えんもんな。
バレちゃうし。なっちゃんに。
じゃあ、俺に頼るしか無いじゃんよ。
当然の帰結。
「……ちょっと、危ないけど方法はあるよ」
そう言って、俺は服を脱ぐ。
水、汚いけど。
俺、病気になったりしないよな?
まあ、でも。
天王寺さんの祈祷技で清めて貰えば、病気くらい治りそうな気がしないでもない。
「……色々すみません」
天王寺さんは、ちょっとだけバツが悪そうな顔をする。
……自分が友達に幻滅されるのが怖くて、大阪スキルを使わないことを負い目に感じてるんかね。
「気にしなくていいよ」
……ちょっと、恥ずかしいのはあるけどな。
俺は裸に自信は無いし。ぱんいち晒すのは恥ずかしい。
……俺は喧嘩が弱い。
そこらへんから察するだろうけど、俺の裸はみすぼらしい。
そういうのを女子に晒すのは抵抗がある。
けどまあ、しょうがない。
俺は橋の欄干に上って、飛び降りた。
道頓堀川に。
その直前に
「大阪スキル発動」
……大阪スキルを起動させて。
ドッボーン!
水飛沫をあげて。
俺は道頓堀川にダイブして、深呼吸する。
……うん。息が出来る。
俺の大阪スキル「海遊館」の常時発動技。
水中呼吸。
そんな俺に、四方八方から半魚鶏が迫って来る。
……はじめてナマで半魚鶏を見たけど、キモイね。
羽毛の無い鶏の胴体に、鱗。魚の顏。嘴。
4本の足に、水かき。鋭い爪も生えている。
俺はそれをじっと見据えて。
大阪スキルの技を使用する。
使うのは……
電気鰻の能力!
「サンダーフェノメノン!」
その宣言と同時に。
高圧電流を放電し、接近していた半魚鶏を感電させる。
それを確認して、俺は急いで道頓堀川から上がろうとした。
……これは連続で出来ないからね。インターバルを少し置かないといけない。
俺……水泳、そんなに得意でも無いんよね。
クロールとバタ足くらいしかできないし。
すると……感電していない半魚鶏が俺を追いかけて来た。
やつら、本職だから……速い!
まずい!
追いつかれる!
焦った。
焦るが……!
パンチしてシャークバイト……水の抵抗で上手く行かないかもしれない。
水中でサーディンランブラスト……数の暴力で押し切られる気がするなぁ。
するとだ。
アハアアアアアン!
……水中で喘ぎ声が聞こえた。
その次の瞬間。
道頓堀川の水が、明らかに流れと違う動きで動き始めた。
ぺっ、って感じで。
俺は水に流されて、そのまま道頓堀川の岸に吐き出されていた。
その岸なんだが。
……なんかね。
岸が変なのよ。
なんかその周辺を重機で掘り下げたみたいな感じになってる。
そしてすぐ傍に、超巨大電動こけしを座り込んで道頓堀川の水に浸けている天王寺さんがいた。
その顔は……なんか色々諦めていた。(諦めているせいなのか、道頓堀川に意識が行ってないようだ)
……そこで色々と俺は察してしまう。
俺がヤバそうだから、自分に掛けた禁を破ったのか。
なんというか……ありがとう。
……ふと見上げると、少し離れたところでなっちゃんが俺たちを見ていた。
とても心配そうな表情で。
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