第31話 魔女の息子

 親友に自分の大阪スキルの全貌を見せてしまった天王寺さん。

 道頓堀川の水を下僕にして、気絶しているのか死んでいるのか分からない半魚鶏を岸に上げさせて。


 俺たちの見てる前で、彼女は半魚鶏の肛門に、電動こけしを挿入していった。


 半魚鶏たちは挿入された瞬間「アッハアアアアン!」って喘ぎ声を洩らしたけど。

 それ以後は一言も発しなかった。


「……動物の場合は、肛門か膣に電動こけしを挿入しないと支配できないのよ」


 そう言った天王寺さんの目は死んでいた。

 ……まあ、デカイもんね。半魚鶏。体長1メートル以上あるし。

 これ、素手で運ぶのはきついしな。


 なっちゃんはそれを、とても悲しそうに見つめていた。




 そして。


「すみません。お土産を持ってきました」


 天王寺さんの大阪スキルで支配して、ここまで歩かせてきた2体の半魚鶏を、情報屋をやってるラーメン屋の屋台の店主に引き渡す。

 すると


「おお、こんなんナンボあってもいいですからね」


 丸刈りで、小太りで少し小柄なラーメン屋の店主が、それを喜んで受け取る。

 受け取って、ナタみたいな包丁で半魚鶏の首を刎ねた。


 瞬く間に肉にしてしまう。


 ニコニコだ。


 そこで、天王寺さんが話し掛けた。


「……すみません。ステーキ売ってますか?」


「残念ながらありません」


 ……飲み屋でおっちゃんたちに教えて貰ったキーワード。

 帰って来た言葉も、おっちゃんたちに教えて貰った言葉と一緒だ。


 俺は興奮した。

 パズルのピースが嵌っていく感じで。




 情報の代金で数万円要求されたけど。

 無事、情報屋と接触できた。


 貰った情報としては……


 淀川の魔女は、別に何も黒い組織と関係は無い。


 既婚者だが、夫とは死別。


 息子が1人いる。


 彼女の占いは当たるが、順番待ちで数年先まで予定が埋まってる。


 占いの順番を早めるために、息子の口利きをしてもらったやつがいる。


 ……この5つか。


「……数年待ちはキチイな」


 買えるだけの情報を買い、俺たちは路上で顔を突き合わせて相談していた。


「そうですね。その間に全く何も課題解決のために頑張ることもできないですし。是非、順番を早めましょう」


 天王寺さんも乗り気だ。


 だけど、なっちゃんが……


「……でも、順番を守らないってそんな……ズルだよね?」


 ……なっちゃんの良いところかもしれんけど、今回はな。

 首が危ないときに髭の心配をするべきじゃないんだよ。


 だから


 俺が口を出そうとしたら


「ナツミ、あなたのそういう真面目さは素敵なんだけど、背に腹は代えられないわ。ここは我慢して」


 ……俺が汚れ役にならんでも良かったか。

 というか。これもふたりの絆なのかね。


「……分かった」


 なっちゃんが、天王寺さんのそんな言葉にしぶしぶといった感じで納得していた。




 そして浪速区。

 俺たちは通天閣周辺で、淀川の魔女のひとり息子がどういう人物なのかを調べていた。


 淀川の魔女……谷町京子の息子である、谷町将の情報を。


 ……そして、絶望的な気分になった。

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