第29話 道頓堀川の怪物
淀川区に来た。
3人で。
……さて、どうしよう?
「まずは淀川の魔女のことを聞き込みしましょう」
天王寺さんの言葉。
なっちゃんも頷く。
……だよね。
淀川区の酒場に向かい。
淀川の魔女のところで働きたいんですがという内容で聞き込みをする。
発案者全員。他に、適当な方法が思いつかなかったから。
……現世だったらSNS使えたんだけどなぁ。
やってることTRPGみたいだな。
こんなので大丈夫なのか?
そんなことを思ったけど。
代案無いので黙った。
……年長者なのに、冴えたアイディア出せないのが情けない。
話しかけるのは、俺と天王寺さん。
なっちゃんは口下手だそうで、良く知らない人と会話して必要な情報を引き出すという行為ができないらしい。
……そうだったのか。俺とは普通に喋ってたから気づかなかった。
知らんかったわ。そうだったんだ。
「すみませんお役に立てなくて」
すまなさそうになっちゃん。
俺たちに頭を下げている。
しょうがない。しょうがない。
人間、得手不得手あるし。
「まあ、後ろで見ててよ。参考になるかもよ」
言って、天王寺さんはなっちゃんにウインクした。
「すみません、お楽しみのところすみませんが、ちょっとよろしいでしょうか?」
……とっかかりは天王寺さん。
男が行くより威圧が無いよね。
で、彼女は物怖じしないし、愛想はいいのよ。
デパートで売り子やってただけあるというか。
……まあ、なっちゃん曰く、生前からそうだったそうなんだが。
どうみてもストゼロレベルの安酒をかっ喰らってるおじさん2人に、美少女が話し掛ける。
うん……ちょっと危険な香りがするな。
「おお、べっぴんじゃねえか。何才だ?」
酔眼の歯の欠けたおっさんが、天王寺さんに問う。
天王寺さんは当たり障りのない笑顔で
「17才です」
そう答える。
「おう、そうか。成人してると思ったぜ。ちょっとこっちに……」
言って、酔っぱらいおっさんは天王寺さんを抱き寄せようとするんだけど
天王寺さんはそれをさりげなく躱して
「お代わりとってきますね」
ニコニコしながら、ストゼロレベルの安酒を取りに行くために、空になったグラスを2つ回収する。
おっさん、躱されたのを気づいたのか気づいて無いのか。
よく分からない表情をしていた。
で、天王寺さんが自腹を切って安い酒を2つ貰ってきて
「どうぞ」
2人のおっさんに手渡した。
すると
「……で、用事は?」
美少女に触れることはできなかったけど、代わりに酒を貰ったし。
この上でさらに「触らせろ」と言えなかったのか。
おっさんたちは大人しくなった。
「実は……」
そこで天王寺さんは話を切り出した。
どうすれば淀川の魔女のところに就職できるのか?
あと、職場選びとして、どういうことに気を付ければいいのか?
……すると
「……えらいスゲエとこ狙ってんだな?」
「あれだろ? 象印の看板を掲げている大阪スキル使いの占い師の?」
……そうなんだ。
「ええ、やっぱ強い人のところで雇われるのが一番安定してますから」
当たり障りのない笑顔ー。
……勿体ないなぁ。地獄にこういう子がいるのは。
生きてりゃ社会の役に立ったのに。
そんな感想を、社会人として抱いてしまう。
だけど、そんな天王寺さんの努力は空しく
「……まぁ、頑張ってくれや。おっちゃんたちは何も分からん」
こんな言葉で返された。
……あらら。
「そうですか。ありがとうございました」
それでも、丁寧にお礼を言う天王寺さん。
するとだ
「……そもそも、情報収集をここでするの間違ってるぜ?」
顎の下をポリポリ書きながら、おっさん。
……やっぱ可愛いと思ったから、知恵を絞ったんかね?
美人はこういうとき、得だわな。
なんかの小説で読んだけど、美人は感じよくしているだけで、正義であり、かつ知性が高い風に男には見えるらしい。
これは人間心理的なものなので、男の人格には関係の無い外のことらしいんだけど。
普通の美人ですらそんなブーストがかかるのに、本当に知性高い天王寺さんがそれをやったらどうなるか。
……まあ、こうなるのが自然なのかね。
分からないなりに、必死で何か情報を出さないと申し訳ない、みたいな心情になったらしく。
次のようなことを教えて貰えた。
1つ、この淀川区のことは情報屋に聞いたら分かることと。
2つ、情報屋に情報を売ってもらうには、紹介状か誠意を示して相手の信用を得ること。
この2つ。
……まあ、情報屋って、命がけで情報取って来てるだろうし。
ポッと出の人間がいくらお金を積んでも、そうそう情報を売ってはくれないよな。
ひょっとしたら、売り払った情報が原因で、自分が殺される結果になるかもしれないのに。
……紹介状は無理よね。俺たちそんな知り合い居ないもん。
だったら誠意、だけど……
そこを聞いたら、情報屋は普段ラーメン屋をしてるそうで。
ラーメンの材料になる、大阪生物を捕まえて手土産にしたら、話をしてくれるんじゃないかとのことだった。
その大阪生物なんだけどさ……
「半魚鶏……」
道頓堀川に生息する大阪生物で、魚と鶏の中間のような生物。羽毛は無く、全身が鱗に覆われ、翼の代わりにもう2つの足が生えている。
つまり、4本足の半魚鶏。その4つの足の爪は強力で、まるで剣のよう。
……道頓堀川には魔力があり、川を見つめた者に「飛び込まないといけない気がする」という強迫観念を与え、実際に飛び込ませる。
半魚鶏は、そんな風に魔力に負けて道頓堀川にダイブした人間を引き裂いて食べるのだ。
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