3章:強者少年

第28話 淀川の魔女

「なぁ、天王寺さん」


 仕事中、ふたりきりになったとき。

 俺は天王寺さんに訊いてみた。


 彼女は店舗の掃除をしていたんだけど。

 その手を止めて、レジにいる俺を振り返った。


 その目付き。

 敵意は無いんだけど……うっすら冷たい。


 で、俺の問いかけに応えてくれた。


「なんですか逢坂さん?」


 うーん……


 ……この子、俺に気を許してないよなぁ。

 まあ、この年頃の子はそれが普通なのかもしれないけど。


 ……ああ、そんなことはどうでもいいか。


 別に俺は彼女を口説こうとしてるわけじゃないし。

 ここじゃ法律無いけどさ、率先して現世だったら逮捕案件の恋愛に挑戦しようとか。

 そういうのは俺には無い。


 まあ、彼女は美人だし、絶対無いけど彼女が俺に本気で迫ってきたら分かんないけどさ。


 ……て、また脱線した。

 本題だ、本題。


「天王寺さんは、こっち来るときに自分の罪について聞いたの?」


 あ、罪の内容は言わなくて良いからね。プライベートだし。

 それを付け加える。


 彼女、なんでそんなことを訊くのかという顔をしていたんだけど。


 俺はそれを「ああ、彼女は知らないんだな」と判断し


 教えた。


「……俺たち、こっちの世界でもう1回死ぬと、こっちに送られた理由になった罪に何らかの改善をみせてないと、さらに酷いところに送られるみたい」


 これ、知らないとまずいよな。

 死活問題だ。


 すると


 彼女、青くなる。

 ……母乳喫茶のときに匹敵するかもしれない。


「……知りません」


 真っ青になったまま、彼女は言った。


 そっか……彼女も知らないのか。


 そう思っていたら。

 よっぽどショックだったのか、彼女はこう続けた。


「……ホームで突き飛ばされて即死したんで」


 聞いた内容にギョッとしてしまう。


 えっと……


 多分、彼女はうっかり言ってしまったんだろうけど。

 これ、どう返したら……?


 俺のそんな表情を見て、彼女はハッとして口を押えて


「すみません、ついうっかり」


「ああ……うん。別に気にしなくて良いから」


 ハハ、と小さく笑って誤魔化そうとしてみた。

 誤魔化せてるかどうかわからんけど、そのまま


「実は俺も知らないのよ。これってまずいよね?」


 強引に、自分の話に引き戻した。

 彼女の方も、自分の失言を無かったことにしたいのか


「そうですね。言うなれば、いつ来るか分からない卒業試験があるのに、その試験範囲が分かってない、みたいな状況ですから」


 ……的確な例えサンクス。

 そうなんだよ……かなりまずいんだよね。


 俺たちは大阪スキル持ちだけど。

 それで「この地獄の大阪ででも天寿を全うできる」なんて保証では全く無いんだから。


 多古田だってそうだし、この間の万引き女もそうだ。


 誰かに倒されて命を落としたり、その後の人生の自由を無くす可能性あるんだから。


 だから可能な限り早く調べておかないといけないんだけど。


「……何か知らない? 知る方法?」


 彼女に訊いてみた。ダメかも、と思いながら。

 すると……


「……デパートの売り子時代、セレブ女性のお客さんが”淀川の魔女”って人の話をしてたのを聞いたことあります」


 えっと……


「神様に直接質問が出来る人らしいです」


 ……そりゃすごいな。

 神社関連の観光系大阪スキルか、魔法使い枠の偉人系大阪スキル持ちなんだろうか?


 まあ、そんなことはどうでもいいよね。

 肝心なことは、俺たちの知りたいことを教えてくれるかどうかだよ。


「そんな人がいるのか。だったら、ちょっと会いに行ってみようよ」


 俺の提案。

 もちろん、こう続けながら。


「梅田さんと一緒に、仕事の予定について色々詰めないといけないけど」

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