第27話 新しい従業員

 拘束した万引き女を大阪デパートの警備隊に突き出した。

 この後彼女がどうなるのかは知らない。


 ……爆弾首輪でもつけられて、戦闘奴隷にされてしまうか。

 それとも、単純に処刑されるのか。


 まぁ、悪いけど自業自得だ。

 この世界では高級品である「新品の服」を手に入れて、私欲を満たすために使っていたんだし。


 そのせいで、天王寺さんは母乳喫茶に売り飛ばされそうになったんだし。

 それに、一回ほぼ殺されかけたし。


 ……ほぼ死ぬ運命だった天王寺さんの運命を捻じ曲げた少女……


 なっちゃんは、現場に戻るとヘタっていた。

 しんどそうに段差に座っている。


 そりゃそうだ。

 死の苦痛を天王寺さんが蘇生するまで肩代わりしたんだから、精神的にも肉体的にも擦り減らないはず無いよな。


「ナツミ。全部終わったわ」


 さっと電動こけしを腰の後ろに隠しながら、天王寺さん。


 ……見せたくないんか。

 そりゃそうか。


 親友に、こんな女子高生らしくない大阪スキルのオプションは見せられないよね。

 すっごい強いけど。


「……あ、リカちゃんお疲れ様」


 言って、ニコリと笑うなっちゃん。

 しんどそう。何度も言うけど。


 寝ていいよ、って言ったら、喜んでその通りにしそうな感じ。


「あなたが私を助けてくれたから、全部上手く回ったの」


 微笑みながら言う天王寺さん。

 そんな天王寺さんに


「友達を助けるのは当然だよ」


 なっちゃんは小さく笑いながらそう答える。

 天王寺さんは


「……待ってて。そのしんどさ、治してあげる」


「……え?」


 そう言って、左手をまるで印を組むみたいな形で目の前に構えて。


「……ヒーリング・スペル!」


 そう、技名を言い放った。

 途端に、なっちゃんの身体が薄く光って


「え、え、え……?」


 ……多分、体力が回復している。


 あれか……

 道鏡は、孝謙上皇に加持祈祷を行って、看病して治したそうだしね。

 そこから来る技か……。


 天王寺さんは目を閉じて何かブツブツ言っている。

 なんじゃろ……お経?


 まあ、そんなことを1分少々。


「ありがとうリカちゃん」


 ……なっちゃんはすっかり元気になった。

 さっきまでは、このまま歩いて帰るの大変だろと思ったのに。

 全然大丈夫そうだ。


「友達なら当然なんでしょ?」


 そう言って、天王寺さんも満面の笑み。

 そして二人は抱き合って、無事を喜びあう。


 ……うん。良かった良かった。


 ……天王寺さん、抱き合う寸前に大阪スキルを解除したのか、電動こけしを消したな。

 やっぱ、教えたくないんやね。


 自分の大阪スキルの全貌……




 そして。

 天王寺さんだけど。


 彼女はデパートを辞めた。

 まあ、強い大阪スキルを持ってるのに、実質奴隷と大差ない一般従業員やってる理由無いわな。

 俺たち同様、独立するのが自然。


 なんだけど……


「逢坂さん、この古道具の商品台帳ってあるんですか?」


「……ああそれね。前のオーナーがどんぶりで売ってたから、そういうの無いんだよ。ごめんね」


 天王寺さんがてきぱきと仕事をしてくれている。


 ……なっちゃんの誘いで、同じ店をやることになった。

 彼女は優秀なので、実によく気が付いてくれて助かるんだけど。


「リカちゃん、ちょっと手伝って欲しいんだけど今大丈夫?」


「何々?」


 なっちゃんが、自分の背で届かないところにある荷物を、親友である天王寺さんにお願いして取って貰っている。

 踏み台を使っても届かないんだ。

 そういうの、前は俺の仕事だったんだけど……


 今はもっぱら、友達に頼んでやって貰ってるんだね。

 仲が良いこって。


 しかし……


 ……俺の今の立場って、所謂百合に挟まる男ってやつなんじゃないの?


 なんか、いたたまれない気分になるんだが。


 華は増えたが、気持ち的に少し落ち着かない。

 仲間が増えたことは嬉しいんだけどね。本当に。

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