第26話 覚悟ガンギマリ女子高生

 回転するタイルはそのまま、万引き女に突っ込んでいく。

 その数、3つ。


 万引き女はその光景に度肝を抜かれたのか、しばし硬直していたが

 タイルの材質だとか、質量からか、恐れるに値しないと思ったのか、嘲笑を浮かべた。


 そして全く動かず、おそらく自力で躱そうとする。

 切り抜き脱線ゲームを繰り出す必要はないということか。


 まぁ、タイルの硬さやその質量で、人体がどうこうできるとは俺も思えんが。


 ……だけど天王寺さんの表情は、これがこけ脅しであるとは言っていなかった。


「はっ! ホッ!」


 万引き女は自力で躱す。

 躱し方は全く洗練されていない。


 運動能力はそんなに低くはないみたいだけど、格闘技を経験してそうとか。

 そういうのでは無かった。


 ……3つのうち、2つは躱した。


 なかなかやる。

 だけど……


 躱した2つのタイルが、そのまま床にぶち当たり。

 ……深々と床に突き刺さった。


 ……え?


 俺の方が驚いた。

 なんで刺さるの?


 タイルだよ?

 下、コンクリじゃないの?


 俺のそんな驚愕を他所に、タイルの残り1枚が、万引き女の頭部を狙い、まっすぐに突っ込んでいった……


 だが


「切り抜き脱線ゲーム!」


 ……何か気づくものがあったのか、ギリギリで万引き女が自分の頭部をカバーする円を顔の前に描き、タイルを防御する。

 空間の穴にブチ当たり、穴に入りきらず跳ね返る。

 その落下の瞬間に、空間が閉じて……


 下に落ちたタイルは、一部が欠けていた。

 ……欠けた部分は別空間に飲み込まれて消滅したようだ。


 多分、ここに来る途中で見かけた身体の欠損した死体は、こういう理由で飲み込まれた結果なんだな。


「……惜しい」


 天王寺さんはそう言って冷静に振舞う。


 ……覚悟決まり過ぎだろ。

 俺だって、殺害の決断はだいぶ悩んだのに。

 最近の女の子はみんなこうなの?


「……小娘が……よくもこの私を焦らせたな」


 万引き女はワナワナと震える。

 そんな彼女に


「いい大人の癖に、万引きをするばかりか、捕まりそうになったら逆切れして大暴れし、こんなに人を殺すようなクズがご挨拶ね」


「うるさい!」


 天王寺さんの辛辣な言葉に、万引き女は激高する。


「私の人生は悲惨だった! 男どもの自分勝手のせいで食い物にされ、やっと出会えたと思った信じた男に裏切られ、極貧に叩き落され、苦しみ抜いて死んだんだ! こっちの世界で得た力で好き勝手に生きて何が悪い!?」


 そして天王寺さんを指差して


「お前ら薄っぺらい、若いだけの小娘が偉そうなクチを! 前の世界でもそうだったよ! 馬鹿のくせに若さだけで私の邪魔をしやがって!」


 万引き女は深い憎悪を天王寺さんに向けていた。

 それは、天王寺さんへの嫉妬なのか。


 天王寺さんは若いだけでなく、外見も確実に美しい。

 それに対する万引き女は、悲惨の一言。


 残酷だけど、そうとしか思えなかった。


「天王寺さん」


「……なんですか逢坂さん?」


 万引き女から目を離さず、天王寺さんは言う。

 これは伝えておかないと。


「アイツの技……切り抜き脱線ゲームは、指で囲んだ範囲を覆っている、カバーになってるものを切り抜いて、中身を露出させる技」


 だから……彼女の首筋を見つめつつ続けた。


「素肌にそれをされると、一気に骨が見えるまで抉られてしまうけど、素肌じゃなければ、素肌を覆っているものが切り抜かれるだけで済む」


「……ありがとうございます。りょーかいです」


 言って、彼女は自分の制服の一部に電動こけしをなぞらせた。


 アハアアアアン!


 ……彼女の制服が喘ぎ、悶える。


 女の子が使っていい大阪スキルじゃないよなぁ、コレ。


 そんな俺の思いを他所に、彼女の制服が変形し、首元や手首など、骨が見えるまで抉られると命に係わる部分を覆った。


 ……うん。

 すごい大阪スキルだ。


 ビジュアルが最悪なことを除けば。


「……これでもう、あなたの技で即死は無いね」


 平然と言う。

 ……うん。

 この子、覚悟が決まり過ぎている。


 そのまま彼女は電動こけしをまだタイルの残ってる床に突き立てて、デパートを感じさせる。

 そして下僕になるデパートの床。


 ……また、床のタイルがひとりでに外れ、手裏剣状態で天王寺さんの周囲に浮かび上がった。


 そこで天王寺さんは話し始めた。


「……私の大阪スキルで下僕化した無生物は、大体私の半径3メートル圏内で私が思考した命令を忠実に実行するの」


 鉄より硬くなって敵に突き刺されとか、回り込んで後ろから首を刎ねろ、とかね。

 真顔で淡々と説明。


「だから、敵を攻撃して戻って来なさいって命令すれば、このタイル手裏剣は永遠に使えるんだよね……この意味、理解できますか?」


 ……万引き女の顔に脅えが走った。

 自分の圧倒的不利を理解してしまったからか。


 ヨーヨーか何かのように、タイル手裏剣を使われる。

 軌道が自由自在、というおまけつきの。


 防ぐにはあの空間に穴を開ける技を使うしか無いけど……

 タイルは自分の正面から来るとは限らない。


 加えて。


 タイルはまだまだあるから、防いだところで特に意味は無い……


 追い込まれた万引き女は


「AVイントロダクション!」


 ……狙いをつけさせないためか。

 視界のモザイク化という選択肢を選ぶ。


 まあ、それなら


「サーディンランブラスト!」


 ……これだよ。


 俺のこの技は、イワシの大群であるという点で、攻撃範囲が広いからね。

 モザイク化くらいで、狙いが外れることは無い。


 ……多分だけどさ。

 技の同時発動できないくさいんだよね。

 多分、技のイメージがコーナーだからだろうけど。

 ……番組的に複数のコーナーを同時にやったりしないもんな。


「ぎゃあああああ!!」


 俺の右手から放出される、輝くイワシの大群に飲み込まれ、吹っ飛ばされる万引き女。


 倒れ伏した女に、俺はダッシュして近づき、その両手を捩じり上げた。

 ……ちょっとだけ、女性相手に力押し対応をしていることに負い目を感じたけど、しょうがない。


 そして言ったよ。


「天王寺さん、ロープと猿轡、調達できない?」


 彼女はちょっと、驚いたような顔で俺を見つめていた。

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