第20話 守護らねば

 大阪デパートの婦人服売り場で働いている依頼主に、ふたりで会いに行った。


 彼女は今日も、売り子の制服姿で一生懸命働いている。


 商品のチェックをしている彼女に、なっちゃんが声を掛けに行く。


「リカちゃん」


「ナツミ……? 今日は何の用? 悪いけど私、仕事あるから……」


 依頼人は前に会ったときも思ったけど、まあ美人。

 ……美少女って言った方がいいのかな?


 多分、生前は高校生だしな。


 顔の造りもだけど、手足や胴体、頭の大きさがまあ、完璧なのよ。

 マイナスになる部分が無いというか。

 生前の俺の人生でも、こういう美少女にリアルで会ったことは無かったかな。


 そんな彼女が、一体どういう難題を抱えているのか……?


 俺はなっちゃんと依頼人……天王寺さんとの会話を見守った。


「リカちゃん、依頼を見たよ。私たち、依頼を請けに来たんだよ」


「え……?」


 意外そうな顔をする天王寺さん。

 彼女の中で、大阪ハンターと親友が結びつかなかったのだろうか?


 ……まあ、結びつかないかもしれないよな。

 なっちゃん、そんな荒事を生業にするタイプじゃ無いし。


「だから、依頼の詳しい内容を聞かせて欲しいの」


「ちょっと待って」


 天王寺さんは混乱と動揺を抑えるように頭に手を当てると

 しばらく考えて


「……昼休みがちょっとあるから、そのときに話すわ」




 正午を待った。

 俺たちは昼ご飯に大阪デパートの地下の食品売り場で豚まんを買って食べた。


 食べた後、もう一度婦人服売り場に行き


「……お待たせしました」


 天王寺さんは俺に一礼し、続いてなっちゃんに頭を下げる。

 そして言った。


「実は……ここの売り場で服が万引きされるのよ」


 ……彼女の話は理不尽の一言。


 彼女はここで、婦人服の販売を任せられているそうなんだけど。

 三食の保証と、薄給で。


 彼女はそんな環境にもめげずに、自分の出来うる労働奉仕をしてきたそうなんだけど。

 最近、頻繁に起きるようになった万引きの責任を、彼女は全面的に押し付けられたそうだ。


 ……主な被害が、彼女の売り場に限定されるが故に。


 万引きが起きるのと、彼女の管理区域の問題は別だろ。

 盗みなんだから、店全体で考えろや。


 ……そう思うけど、この辺が地獄の大阪あるあるなのかもな。


「……今月中に万引き犯を殺すか捕まえることが出来なければ、お前を売るって言われてるの……」


 彼女は青くなっていた。

 ……またそれか。


 ここのやつらは本当に簡単に女の子を売り飛ばすよな。

 ちょっと金が欲しいと、すぐ売り飛ばす話が出る。

 最悪だよ。


「……どこに売られてしまうの?」


 ちょっと訊きにくいだろうに。

 それでもなっちゃんは訊いた。


 ……深刻さを共有したいからか。


 すると、彼女は一瞬詰まった様子を見せたけど。


 ……教えてくれた。


「……母乳喫茶」


 ……それはまた、ひでえな。


 あれだろ?

 ウエイトレスの女の子が全員授乳期の経産婦で、客に求められれば笑顔で客に授乳するとかいう、酷いやつ。


 で、牛みたいに、常時授乳できる状態を維持するために、出産したらすぐ次の子を仕込まれるとかいう。

 客に。


 で、産んだ子は全員生まれると同時に奴隷に売られて、産んだ本人も妊娠適齢期過ぎて妊娠しにくくなったら店を叩き出されるという。

 達磨トルソーバーより別方向で酷い性風俗。


 ……何が何でも、そんなところに彼女を送るわけにはいかないな。

 俺たちはその決意を硬くした。

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