第19話 見逃せない依頼

 大阪ハンター……賞金首や大阪生物を狩ることで、報酬を得て生活する人たち。

 その多くが大阪スキル使い……らしい。


 先日の夕食のときに、道楽蟹狩り以外にもうひとつ仕事を増やそうと考えて。

 数日後、時間を作ってやってきた。


 通天閣に。 


 通天閣の酒場に、大阪ハンターへの依頼が貼り出されているのだ。


『大阪ハンターの店・ビリケンさんの溜息亭』


 そんな看板が掛けられている呑み屋。

 そこの暖簾を俺たちは潜った。


 ホルモン鍋の並ぶテーブル群。それを囲む人たち。

 その奥に、掲示板があって、そこに依頼が貼ってある。


「今日はただの下見ですから受けないですけど、見るだけ見てみましょうよ」


 なっちゃんが俺の袖を掴んで、引っ張ってくる。

 すっげー楽しそう。

 まあ、ワクワクはするよね。


 なんかTRPGの冒険者みたいだしさ。


 ……ここ、本当は一応地獄ではあるわけだけど。


 まぁ、見てみるか。

 俺たちは掲示板に近づいた。


 そして貼り出されている依頼を見る。


 えーと……


『道頓堀のフラックを退治して欲しい』


 ……ああ、たまに死体から発生するやつね。

 危ないらしいね。こーゆー依頼は受けたくないな。

 ……もし受けるとしてもパスだなこれは。


『北新地のアマゾネスに誘拐された息子を取り戻して』


 ……難しそうだな。

 仕事慣れしてない俺たちにはまだ厳しいのでは。

 もっと仕事に慣れてから請けたいね。


『恋人の仇を取って欲しい』


 ……モノが地獄の大阪だからな。

 逆恨みの可能性も考えられるし。

 こういう依頼は、依頼主のことを相当良く見ないと請けられないよ。

 逆恨みの片棒を担ぐのはイヤー。


 道楽蟹絡みか、同レベルの大阪生物絡みの依頼って無いのかね?

 ……道楽蟹……道楽蟹……


 そうやって、目を皿のようにして蟹の字を探していたら。


 こんな依頼が目に飛び込んで来た。


「万引き犯を捕まえてほしい……天王寺理香子?」


 ちょっと待てや。

 この依頼……理香子ちゃん?


 どういうことだ……?

 俺はこの依頼だけは見逃せないので細部まで読んだ。


 すると、依頼の詳細は直接会って話すということと、報酬がたった3万円だということ。

 これだけが分かった。


(報酬やっす……!)


 他の依頼、10万円超えてるのに。報酬。

 これじゃ誰も請けないぞ?


 ……でも。

 デパートの従業員には、この報酬額が限界なのかもしれないな。

 現世だったら、デパート従業員って、立派な給料を貰ってるんだろうなと想像がつくけど。

 こっちだったらおそらくほぼ奴隷だろうし。

 かつての俺たちがそうだったようにね。


「リカちゃん……!」


 なっちゃんがそう、狼狽している声を出した。

 まあ、そうなるよね。


 ……こんなところに依頼を貼るってことはさ。

 追い込まれていることと同義だもんね。


 親友がそういう状況なら、狼狽もするよね。


 だから


「行くか」


 そう言って、俺は酒場の店主に仕事を受ける方法を聞きに行った。


「ケンタさん……?」


 その後ろに、なっちゃんが付いてくる。


 ……あの依頼はおそらく誰も請けない。


 だったら、俺たちが請けるしか無いでしょ。

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