第21話 もしもしピエロ

「で、どういう状況なのか教えて欲しいんだけど」


 問題の万引きがどう起こるのか。


 そこが気になるよね。


 ここって、監視カメラはあるんだろうか?

 現世ではあったけど、こっちはどうか分からない。


 すると天王寺さんは、絶望した表情で


「監視カメラに不審な人物が映ってるってことはないの」


 ……万引き犯を捕まえられないなら、お前を母乳喫茶に売る。

 これを言われているから、それこそ死ぬ気で監視カメラの映像をチェックしたらしい。


 で、特定の人物が店に来ているときに限り、万引きが起きているという事実は無かった。


 ……というより


「怪しい動きをしている人間は居たんだけど……それは全部別人なのよ」


 ……ああ、そういうことか。

 だから、特定の人物を決められないから「不審者無し」なのね。


 現世でも、万引きは店側が犯人の特定は出来ているんだ、という話は結構聞いたことあるけど。

 この件は、そこにまだ至っていないのか。


「……どうしよう」


 親友が女の地獄に送られてしまうかもしれないからだろう。

 なっちゃんが青くなってオロオロしている。


 俺も結構困ってるよ。


 監視カメラに写ってないなら、これはもう……


 力押しでいくしかないし。




 俺は、客を装って婦人服売り場にいる。

 隣では、なっちゃんが服を選ぶ振りをずっと続けている。


 ここ、婦人服売り場だしな。

 なっちゃんがこうしないと、不審者は俺になってしまうから。

 これはもう、しょうがない。


(ケンタさん、頑張ってください)


 スカートを選ぶ振りをして、なっちゃんが小さい声で語り掛けて来た。


 うん……気持ちは嬉しい。

 嬉しいけど……


 今はちょっと困るかな。


 服を選んでいるなっちゃんは、今日はこの間ここで購入した黒いシャツと新しいジーンズを身に着けている。

 対する俺は……ジャージ。

 俺の方も、何か服買わないと、なっちゃんが恥ずかしい思いをする可能性あるな。


 そんなことを頭の片隅で考えた。


 ……そのとき、俺は感じ取った。


 俺は歩き出す。

 目指すのは、シャツを選んでいる女性。


 見たところ、二十歳そこそこ。

 ちょっと太目で、茶髪の派手な女子。


 そんな女性の肩に手を置き、静かに言ったんだ。


「……アンタ。今服の内側に隠したシャツを外に出すんだ」


 女性が弾かれたように振り返った。




「……はぁ? 何を言ってんのアンタ……」


 女性は、俺の言葉に平静を装っていたけど、明らかに声が震えていた。

 何故バレた!? 声音にそういう気持ちが乗っていた。


 ……隠しても無駄だよ。

 俺にはハッキリ分かってるんだから。


 ……俺の、イルカの超音波の能力を使用する技……ドルフィンソナーで。


 俺の大阪スキルの技のひとつ。

 これを使えば、周辺で起きているモノの動きは正確に把握できるんだけど……


 いかんせん、根性との戦いになる。

 できれば使いたくなかったんだ。大変だから。


 すると。


「証拠あんの!? 証拠を出せ!」


 女性はヒスったように騒ぎ出す。

 ……往生際が悪いな。


 だから言ってやった。


「……あんたの腹の中。服を捲ってくれるかな? ……なんなら、俺のパートナーが女子だから、彼女にやってもらっても構わないけど」


 違っていたら何でも責任を取る。

 そういう確信というか、気迫を声に込めて告げた。


 すると……


「やってもらおうじゃない」


 開き直った犯人の女性が、そう言って来た。

 言ってきたけど……声が震えている。


 ……最後のあがきか……


 俺は心で溜息をついて、なっちゃんを呼んだ。


「なっちゃん。話は聞いていたかと思うけど、やってくれるかい?」


「……分かりました」


 なっちゃんは、服を選ぶ振りをやめ、こっちにやってきて。


 犯人女性の前に立った。

 そして、その着ている灰色のゆったりめのトレーナーに手を掛けたんだ。


「失礼します」


 そのときだった。


「AVイントロダクション!」


 犯人の女が叫んだ。


 同時に……女の姿がモザイクでぼかしが入った状態でしか見えなくなった!


 えええええええ……!?


 こ……これは大阪スキル!?

 万引き犯は大阪スキル使いだったのか!?

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