第67話 犯罪仮面の正体
「あなたは正義の味方じゃないんですか!?」
天王寺さんがそう叫んだ。
淀川区の治安の良さには天王寺さんも感動していたんだ。
そしてそれが、淀川区を守る正義のヒーローのお陰だと知って、それはさらに強くなった。
それなのに。
すると
「……私は正義を守るつもりで行動しているわけじゃないんだよ」
その声はとても辛そうで……
言いながら、彼はハイエースに乗り込む。
「あくまで自分のためだ」
自分のため……?
状況が受け入れられない。
そして困惑。
そんな俺たちを他所に。
彼は行動を開始した。
「飲酒運転ブレイク!」
……さっき、男児野に繰り出した技……!
おそらくは飲酒運転を超能力に昇華した技のハズ。
どういう解釈の技なのか……!
とにかく、固まるとマズイ。
「皆! 散るんだ!」
俺は指示を出し、その動きを見守った。
すると
……ハイエースは
なっちゃんの方に動き出し、その見事なハンドル捌きで、車体の側面部分をなっちゃんに迫らせた。
その瞬間だった。
「ハイエース拉致」
バァッ!
ハイエースのドアが開き、無数の手がなっちゃんを捕獲する。
「きゃああああ!」
なっちゃんの悲鳴。
なっちゃんがハイエースされた!
ハイエースは走り去って行く。
この部屋の、地獄の大阪を一望できる大窓をぶち抜いて。
「ナツミーッ!」
天王寺さんの叫び。
だがそんな叫びも空しく。
ハイエースは窓の外に消えて行った。
……ここ、4階じゃなかったっけ?
俺はそう、ハイエースの消えた窓の外。
慌てて駆け寄り、夕刻に向かいつつある空の下を確認した。
すると
「……ハイエースの残骸が無いぞ」
驚愕する。
この高さから落ちても破壊されないなんて。
「……おそらくあのハイエース拉致をやってる間限定で、絶対に事故を起こさないとか、そういう加護があるんじゃないか?」
谷町さんが厳しい顔で、俺の疑問にそう応えてくれた。
そして……
「幸い、梅田さんには発信機が取り付けてある。……追おう」
言って、谷町さんは動き出した。
天王寺さんも続く。
そして俺も。
……ただ。
頭の片隅で思う。
……飲酒運転ブレイク……
どのへんが「飲酒運転」だったんだろうか?
外に出て、ここまで乗って来た車に乗り、走る。
……ふたりは、そう離れた場所に行ってはいなかった。
2人は……
「ここは……淀川河川公園……!」
川沿いの公園だった。2人がいたのは。
ブランコや砂場のような遊具は何も無いけど。
とにかく広い。
ほぼ原っぱ。
そこに。
犯罪仮面と、その傍になっちゃんが。
並んで立っている。
「なっちゃん!」
「ナツミ!」
俺と天王寺さんが同時に叫ぶ。
そこに
「……キミたちなら、ここに追いついて来てくれると信じていた」
言いながら、ドン、となっちゃんを俺たちの方に突き飛ばし。
彼は仮面を消失させた。
……あの仮面は、大阪スキルの装束だったのか。
そのヘルメット、サングラス、マスクの下にあった顔は……
「そんな……!」
「何でよ……!」
「馬鹿な……!」
俺たち三人は各々、その彼の正体に驚くしか無かった。
まさか、マスクの下からこんな顔が出てくるなんて。
それは……
……なっちゃんと天王寺さんの勉強を見てくれた頼れる大人の男性……木津川さんだったのだ。
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