第71話 飲酒運転なのか?

 木津川さんは、俺たちを試験しようとしている。

 だから、舐めプはありえない。


 木津川さんは全力で俺たちを倒す気だ。

 それで、あれなんだ……


 ということは……

 あの状況は木津川さんの必然。


 そこで


 ……少しだけ、気になることがあった。


 あのハイエースでの轢き殺しアタック。

 どこが「飲酒運転ブレイク」なんだ?


 どこにも飲酒運転の要素が無い。


 ……何か、引っかかる。

 俺の発想力が低いだけかもしれないけど……


 そんなことを思いながら


「サーディンランブラスト!」


 谷町さんを救うため、俺はサーディンランブラストを放つ。

 木津川さんはそれに反応し、飛び退いた。


 距離が離れたので、谷町さんは巨大メイスをデザートイーグルに持ち替え、構える。


 ……なんだこの違和感……?


「谷町さん、ベンチプレスとかされたことありますか?」


 そう、そっと背中の谷町さんに小声で訊ねる。


 すると


「……そっちの、身体を大きく見せるための筋力トレーニングはしていない。主に、ダンベルで戦いに必要な筋肉を鍛えている」


 なるほど……

 じゃあ、多分あまりガッツリ筋力のトレーニングはされてないんだな。


 だったらやっぱり、あの状況はおかしい。


 ……何故だ?


「なっちゃん! 天王寺さん! 木津川さんが谷町さんと力比べで圧倒できなかった状況! おかしいと思わないか!?」


 少し考えた。

 だが、ここは共有すべきだ。


 だから大声で言った。


 もし、これでもう一度……木津川さんが……


 すると

 俺が見ている前で、ハイエースに乗り込んでいった。


 そこで俺の中で、あやふやだったものが形になっていく。


「飲酒運転ブレイク!」


 木津川さんがハイエースを発進させる。

 そのハンドルは……


 俺に向いていた。


 俺に向かって、ハイエースが突っ込んでくる。

 かなりのスピードだ。


 撥ねられたらおそらく怪我をするだろう。


 ……どうする?


 決まってる……!


 俺は足を撓めた。


 そこに


「逢坂さん!」


 天王寺さんからの鋭い声。

 それはこう続いた。


!」


 なっちゃんがギョッとした顔を自分の親友に向けている。

 だが、俺も


 その言葉に頷いて、接近しているハイエースに、俺は飛び込んだんだ。


 ……天王寺さんもその判断をしたなら、きっとこれが正しい!


 俺はハイエースに正面衝突し。

 抗えない力に叩き返される感覚を全身で味わい。


 そのまま、アスファルトの道路に転がった。


 ……俺はハイエースに撥ねられた。

 だが、運が良かった。


 骨は折れてない。

 ちょっと衝撃を感じたけど。


 起き上がる。


 ……見ると。


 ハイエースが消えていた。


 運転手の位置に佇む木津川さん。


 ……やっぱり。


 俺は言う。


「……飲酒運転ブレイクなんて技は無いんだ……これはおそらく」


 そして天王寺さんも同じ意見なんだろう。

 こう言ったんだ。


「あおり運転でしょ? ……技の効果は、煽った相手に殴り勝てる身体能力の獲得……!」


 天王寺さんの言葉は、俺の想像と同じものだった。

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