第72話 大阪犯罪と変態仮面

「煽り運転しておいて、逃走を諦めさせた相手に車降りて殴りかかってみたら、被害者の方が喧嘩強くて返り討ちに遭いましたじゃ、煽り運転の面子が丸つぶれよね」


 そう。

 そんな事態が起きないよう、煽った相手より必ず殴り合いで強くなれる。

 そうさせるための大阪スキル技。


 飲酒運転ブレイクは、それを隠すためのフェイクだったんだ。


「だから、煽り運転を成立させないために、車に飛び込んで貰うように逢坂さんにお願いしたの……思惑通りだったわね」


 天王寺さんの言葉に、屈んでいる木津川さんは「見事だ」と賞賛の言葉を口にする。

 そして立ち上がり。


「……だが、私の大阪スキル技は先ほどの『煽り運転の装』だけではない」


 大きな技ではあるがね。

 そう、楽しそうに付け加え。


「ひったくりアクセル」


 そして次の技を発動させる。


 ……そのスキルシャウトの直後。


 木津川さんの姿が……消えた。


「消えた!?」


 なっちゃんが驚き、叫ぶ。


「ドルフィンソナー!」


 即座に俺は自分の大阪スキル技を発動させた。

 だが、しかし……


(……反応が無い。いない……?)


 ドルフィンソナーの超音波は、この場に俺たち4人以外の人間の存在を捉えていなかった。

 そこから導かれること……


 ここから木津川さんは、いなくなった。


 だが……

 そんなわけ、無いんだよ。


 これは大阪スキル技なんだから。


 考えろ……!


 ひったくりアクセル……ひったくりを超能力に昇華した技……。


 そこからどういう解釈にした技なんだ……?

 ここで黙って、技の経過を見守っていたら失格だ。


 ここで考え、見抜くんだ。

 それを木津川さんは望んでいる……!


 ひったくりってどんな犯罪だ?

 そんなの決まってる。


 通行人から持ち物を奪って逃げる犯罪だ。


 そこから考えろ。

 何故消えた……?


 必死で頭を捻る。


 そこで閃く。


 相手の持ち物を奪うには何が大切……?

 それは、持ち物を奪うまで自分の存在を気づかせないことだろ!


 だとしたら……奪うものが無くなれば、ひったくりが不可能になる!


 そこからの決断。

 俺は着ていたジャージを脱ぎ始めた。


 脱衣クロスアウッ!


「ウオオオオオオオ!」


「な! 何してるんですか逢坂さん!?」


「逢坂さん!」


 なっちゃんと天王寺さんが慌てたが、気にしていられない。

 恥ずかしさを誤魔化すために、俺は雄叫びをあげながらジャージを脱ぎ捨て、シャツを脱ぎ捨て、時計を外し、靴下も靴も脱ぎ捨てて。


 そしてブリーフ1枚のパンいちになったとき。


 俺の目が、木津川さんの姿を捉えた。

 木津川さんは……おそらく谷町さんのデザートイーグルを奪おうと接近していた。


 俺は叫ぶ。


「谷町さん、走れぇぇぇぇッ!」


 俺の言葉に、谷町さんは反応してくれた。

 その真意を問わず、すぐにダッシュを掛けてくれた。


 標的に走り去られ、デザートイーグルをひったくることに失敗した木津川さん。

 俺はそこで、木津川さんに突っ込んでいった。


 さあ、どう出る木津川さん!?


 木津川さんは……


「銃刀法違反武装!」


 そのスキルシャウトで、両手に軍用ナイフと手斧を召喚し。

 足元にトカレフ3丁を散らばらせる。


 両手の武器は分かる!

 あれで接近戦を戦うつもりだ!


 じゃああの足元のトカレフ3丁は?


 ……ここで、男児野の止めを刺した技を思い出して。

 あの技の意味合いについて気づいてしまった。


 痴漢の手。


 木津川さんはそう言っていた。

 あれはおそらく、痴漢が女性を触るという行為を超能力に昇華した技。


 ……痴漢の犯罪を、念動力でやれる技なんだ!


 ということは……!


 俺の気づきと同時に、トカレフ3丁がふわりと浮き上がり。

 その銃口をこちらに向けて来た!


 マズい!


「海亀シールド!」


 海亀の甲羅の盾を展開する。

 両手で2枚。


 ギリギリ間に合った。


 複数回の発砲音。

 それが甲羅に弾かれて


(……一筋縄で行く相手じゃない!)


 俺はそう、木津川さんの強さを思い知り。

 ……保険はあるんだけど。


 無傷で勝つことを諦めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る