第108話 大阪王のおわす場所

 大阪王が大阪城にいる。

 それが分かったのは、大阪四天王の資格を全て揃えた後。


 全員で「大阪王に謁見する」これを意識したときだ。


 どこに行けばいいか頭の中に浮かんだんだ。


 そのイメージで……大阪城が浮かんだ。

 そしてそれが分かったとき


「……大阪城か。道理で、っていう感じだな」


 谷町さんが呟いた。

 何が道理なの?


 それは……


「大阪城周辺にはフラックが大量集結している」


 あ……なるほど。

 謁見を意識した四天王が揃わないと、行けない仕様になってるのかもしれないな。

 そういうことなら。


 さすがに大量集結したフラックをどうこうできるとは思えんし。

 ここにいる4人の力を集めても。


「おそらく、すんなり行けると思う。けれど……」


 念のためだ。

 1週間後にしよう。


 大阪王謁見に向かうのは。

 その間、思い残すことが無いように各自やりたいことをやっておこう。


 お互いに。


 谷町さんの提案。

 俺たちはその提案を受け入れた。


 ……何があるか分からないもんな。




「じゃあ、行きましょうか」


 なっちゃんがハイエースを出し。

 全員乗り込んで大阪城へ向かう。


 車が発進する。


 最初は普通のドライブ感覚。


 路上で、ちょくちょく犯罪が起きているけど、それはまあ日常風景。

 良くはない。

 けれど、気にしていたら今は大阪城に行くことに支障が出る。


 ……悪い。


「襲って来る相手以外気にしてる時間は無いよ」


 谷町さんも当然それは理解しているようで。

 俺たちもそれを全員理解していた。


 大阪王……

 謁見して、この現状を変えて貰えるように直訴する。

 無理筋で、やるだけ無駄だとは思わない。


 何故なら……


 大阪四天王には、木津川さんのような人格者も含まれていたんだ。

 単にこの地獄の大阪の現状を愉しむような邪悪な存在であるなら。

 木津川さんの四天王入り。


 おそらく、無かったんじゃ無いか?

 だから話くらいは聞いてくれると思うんだけど……


 風景は流れていく。


 中央区の店舗が並ぶ街の風景から……

 大阪城周辺の、お堀、石垣等のある、城の有る風景に。


 そしてその周囲を丸眼鏡を掛けた道化師のような姿の大阪生物……フラックの大群がうろついているのが見て取れた。


 彼らは太鼓を叩きながら彷徨っている。

 ……何故か、こっちに一切注意を払わずに。


 まるで気づいていないみたいだった。

 普通なら、人間を見つけると秒で襲って来る凶悪な大阪生物なのに。


 ここで「ああ、やっぱり俺たちの予想は正しかった」と安堵すると同時に。

 どうしても拭えない一抹の不安による緊張で。


 フラックたちの動きが気になって仕方なかった。

 特に、車でフラックを撥ねないように気を遣った。

 運転手のなっちゃんが。


「……フラックを1体撥ねたせいで、残りが一斉に襲ってきたら私たち終わりですよね……」


 なっちゃん、軽い感じで冗談っぽくそう言ったが。

 誰も笑えなかったよ。


 その通りだから。


 そして……


「着いたわね」


 ハイエースから全員降り。天王寺さんの言葉。

 俺たちは大阪城の前に立つ。


 聳え立つ白い壁と、青緑色の瓦の巨大な建造物。

 それが大阪城。


 大阪城には大きな黒い木製の門があったんだけど。


 俺たちがその前に立つと、独りでに開きはじめた。


 そして脳内でこんな言葉を聞いたような感覚があった。


『よう来たな……入れや』

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