第109話 大阪王と四天王

 入れと言われた。


 入るしか無いよな。


 ……罠を警戒はしなかった。

 そんなことをする意味がない。


 ここに俺たちを呼んだのは大阪王だ。

 これまで関りも何も無かった俺たちを何で罠に掛けるんだ?

 あり得ないだろ。


「行こう」


 俺がそう呼び掛けると。

 皆、頷いて。


 全員で門を潜った。




 大阪城の中は、電気も何も通っていなかった。

 城の入口には鍵も何も掛かっていなかった。


 そのまんま、中に入る。


 そして、何も無い空っぽの城の中を、ただ淡々と階段で上を目指す。


 で……


 最上階。

 つまり……天守閣。


 天守閣の窓辺。


 そこに、誰かいた。


 後姿しか見えなかったが。

 こちらから声を掛ける前に


「よぉ来た。まずは……」


 その人は振り返った。


 訊かなくても分かる。

 この人が大阪王なんだろう。


 大阪王はノーネクタイ黒スーツの初老の男で。少し太っていた。

 豪快な印象を受ける、サングラスの男性。

 顔の印象は、鼻。

 鷲鼻だった。


 髪の毛は短かった。

 禿げてはいなかったけど。


 彼はその場にドカッと座って


 小さなグラスを4つ、どこからか出してきて。床に並べ。


 同じくどこからか出して来たブランデーのボトルから酒を4つ、注いだ。


「飲めや」


 え……


「未成年です」


「同じく」


「僕もそうだ」


 俺以外の3人が、そう返す。

 そんな3人に


「ここは無法の大阪や。未成年もクソもあるかい。飲めや」


 有無を言わさない。

 その意思。


 ……断ることは出来なさそうだ。


 だから


「飲もう。皆」


「え」


「本気ですか?」


「僕は飲酒をしたことは……」


 俺以外、戸惑いが隠せない。

 けど


「大丈夫だよ。悪いようにはならないよ。そういう状況じゃ無いもの」


 言って、グラスのひとつを手に取り……


 あおる。


 ……ブランデーだ。

 喉が焼ける感覚。


 アルコール度数40オーバーの酒特有の飲み口。


 俺、ビール党で。

 高くても14度くらいが限界だったから。


 これは飲み慣れないんだよな。


 でも……

 ムカムカが……無いな。


 ということは……


「皆、これは飲み口はブランデーそのものだけど、何故か酔わない、というかアルコールがあるように感じない。安心して飲める」


 教える。

 多分、これを全員が飲まないと話が先に進まない。


 俺の言葉を受け、全員そのブランデーのようなものが注がれたグラスを手に取って


 思い切った様子で、一気にあおった。


 飲んだ瞬間、全員むせる。


 全員飲んだのを見て、大阪王は言った。


「これでお前らは不老不死。殺されない限り絶対に死なへん。後は好きに生き」


 そして、帰れ、という風に手で示す。


 え……?


 俺は、ショックを受けていた。

 たったこれだけで、俺は不老不死になったのか?


 もう、死なない?

 殺されない限りということは、おそらく病気にもならない……。


 実感が湧かないのと、その途方も無さに絶句し、動けなくなる。

 でくの坊だ。


 そんなときだった。


「……僕らは不老不死の下賜についてを目的に、陛下の前に姿を現したわけじゃないです」


 谷町さんが、言ったんだ。


 それに対し、大阪王は


「……ほぉ?」


 興味深い、といった風で。眉を動かし。

 谷町さんを正面から見つめてきた。

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