最終章:大阪王

第107話 束の間の日常

 樽井を倒し、1週間が経った。

 その間、俺は延々店番をし続け、天王寺さんとなっちゃんは参考書での勉強の続きをし。

 悔いが残らないように頑張った。


「数学の問題でやり残しがあるとスッキリしませんから」


 2人で頑張ってるので、お茶を差し入れたら、天王寺さんがそう答える。

 数学やってるんだ。


 得意科目だったので、問題を教えて貰った。


 一緒に考えるのがすごく楽しかったよ。


 そして最終日。つまり昨日。


 店を休みにして、映画を観に行った。


『大阪シネマ』


 現実だと、なんばパークスがある場所にある巨大映画館。

 なんばパークスは現実だと映画だけの施設じゃないけど。

 ここは映画だけの空間だった。


 ……多分、作品は大阪スキルで確保してるんだろうな。


「映画なんて久々ですよ」


「だね。昔はよく一緒に映画に行ったよね」


 天王寺さんとなっちゃんがそんなことを言っていた。


 ……本当にそうだなぁ。

 自分も、ここに来てから日々の生活と強くなることに追われてて。

 娯楽なんてここしばらく、遠ざかっていたからな。


 大阪シネマは、座席の数があまり多くなくて。

 100あるかなぁ、って感じ。

 理由はまあ、いつもお馴染み犯罪予防。

 上映中は席を立つことは禁止で。

 ここでは映画泥棒の意味が別の意味なんだなということを教えられてしまったよ。


 俺らが選んだ映画は「潜水艦グリーンマイル」


 海底に存在する潜水艦型刑務所「グリーンマイル」

 そこに収監される囚人たちの物語だ。


 物語が大きく動くのは、双子の少女を強姦殺人した罪で死刑判決を受けた男性ジョンが移送されてくるところから。

 それまでは罪と罰を考えてしまう人間ドラマだったんだけど。


 その男性ジョンは、明日電気椅子による処刑が決まっていたのにも関わらず。

 独房内でいびきを掻いて眠り。

 その処刑の朝「モウコンナトコロニイタクナイ」と、人外の笑顔を浮かべて言うのだった。


 そして処刑が開始され。

 ジョンは電気椅子に掛けられるのだけれど。


 なんとジョンは高圧電流に耐え抜き。

 その拘束をぶち破って、取り囲む看守たちを素手で殺害。


「アト10秒スイッチヲ切ルコトヲ遅ラセタナラ……俺ノ願イハカナワナカッタ」


 そう言って、主人公の前に立つ。

 主人公は恐怖のあまりジョンの足を舐めてでも助かりたいと思うんだけど


「見苦シイノヲ通リ越スト殺ス気スラ失セルネェ……俺ニハアンタガゴミニシカ見エナイ」


 と嘲笑われてしまう。

 そしてジョンは主人公を見逃して……海底刑務所から生身で外に出て、地上まで泳ぎ切って脱獄。

 主人公は死刑囚の脱獄を許した責任を問われ、看守から牢屋同心に格下げされてしまう。


 しかし。


「ジョンを素手で逮捕できる実力を身に着けて戻ってきます」


 そう言い、主人公は刑務所に辞表を出し、修行の旅に出る。

 そういう、続編が気になる終わり方で締めくくられていた。


「前半と後半で内容が全然違うけど、面白い映画だったね」


「まぁ、脚本タルティーノだしね」


 なっちゃんと天王寺さんのコメント。


 まあ、感動とは縁の無さそうな映画ではあったけど。

 ただ楽しいという意味では、合格点出せる映画だったよな。


 続編、公開されるなら観てみたい。


 ……そう。

 絶対に一緒に観ような。

 3人……いや、4人で。




「……充分休んだかな?」


 翌日。つまり今日。

 俺たちは谷町さんと合流した。


 場所は……中央区。

 俺たちの店の前。


「ええ。気になってた参考書の問題は全部解きましたし、昨日は映画も観に行きました」


「面白い映画でしたよ。谷町さんもご家族と観に行って下さい」


 ニコニコ顔の天王寺さんとなっちゃん。

 谷町さんは谷町さんで、この1週間、ひとりの夫であり、父として家族の中で過ごして来たんだろう。


 一番倒さないといけない相手を倒したからか。

 谷町さんの顏は、スッキリしていた。


 そして……


 より、父親の顏になった気がする。


「じゃあ……行こうか。約束通り」


 谷町さんの呼びかけに、俺たちは頷いた。


 これから出向くんだ。

 俺たちは。


 大阪王が居る場所……大阪城に。

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