第13話 独立しよう
俺の大阪スキルは「海遊館」
そのスキルテーマは……水生生物。
海遊館に物理的に展示可能な生物が全てその範疇に入る。
何故なら、現実の海遊館に今、展示が無かったとしても。
未来においても展示が無いかは不明だからだ。
だから、シロナガスクジラみたいな
そういう、大きすぎて物理的に展示不可、みたいな生物は対象外。
それ以外は全部いける。
淡水もいける。
未来において、絶対に淡水生物の展示が無いとは限らないから。
無限の可能性……!
これが観光系大阪スキルの強さなんだ……!
「お前……大阪落人だったのか」
今頃、多古田は俺にそう言って来た。
どんだけ俺に興味が無いんだ。
別に俺は、大阪落人だということを隠した覚えが無いのだが。
……まぁ、これがこいつの俺たちに対する思い入れということなのかもしれない。
都合がいいから労働力として確保しただけで、別に俺たちに対する情は無い。
初日に、俺の代わりにお爺さんを一人、平気で解雇して追放したのがその表れ。
だから逆に言えば、俺たちもこいつに恩を感じる必要は無いんだ。
「そうだよ。……なんでそうなったのかは知らないんだけどな」
そのせいで、何も知らずにこの世界に来てしまった。
……俺の大阪に対する罪……それは一体何なのか。
許されれば、この世界を出ることを許してもらえるのだろうか?
……色々気になるけど。
まずは、俺はこいつを倒す必要がある。
……シャークバイトは使用できない。
使えば、こいつを殺してしまう。
それはさすがに躊躇がある。
ならば非殺傷の技ということになるけれど……
「……何の大阪スキルかしらねぇだが、おではたこ焼き! いわば大阪のソウルフード! 大阪スキルのエリートだべ!」
言って多古田は、両腕を大きく振り上げて
「千枚通しミサイル!」
多古田の頭上に掲げた両手の上に、数十本の千枚通しが出現。
多古田が腕を振り下ろすと、それが一斉に俺めがけて降り注いで来た。
……ヤツの遠距離攻撃の技か。
だったら……
「海亀シールド!」
俺は左手を突き出して、身を屈めた。
左手の前に、海亀の甲羅が出現し、千枚通しの雨から俺を守った。
そして俺は、守りに入りながら右手に大阪スキルのエネルギーを集中し。
千枚通しの雨が途切れた瞬間に、飛び出して、右手のそれを解き放った。
「サーディンランブラスト!」
俺の右手から放出される、イワシの大群を模したエネルギー波。
輝く小魚の奔流。
それは千枚通しミサイルの一斉射撃で、硬直状態にあった多古田に直撃し。
「な、なんだとぉぉぉっっ!?」
多古田を吹き飛ばし、壁に叩きつけ。
ズルズル、とずり落ちさせた。
多古田は、そこから動かない。
……勝てた。
俺は緊張から解放され、大きく息をついた。
「逢坂さん!」
梅田さんが俺に駆け寄ってくる。
その目には、涙が浮かんでいる。
「……目覚めたよ。俺の大阪スキル」
あの日。
キミに大阪スキルというものを教えてもらった日からだいぶ経ったけど。
俺も使えるようになった。
だから
「ここを出よう。梅田さん」
少なくとも、俺たちはここにいるべきじゃない。
「え……?」
梅田さんは驚いていた。
そして、どう答えていいものかわからない。
そういう顔をしていた。
俺は続けた。
「道楽蟹の狩猟のイロハは、これまでの狩猟で理解しているし」
俺たちの現状を
「客商売だって、店番で十分学んだろう? ……それに。俺、こいつが店の仕事してるとこ見たこと無いんだけど」
……そう。
コイツ……多古田は何もやってないんだよ。
従業員……というか奴隷に仕事をさせて、自分は金勘定。
一日の仕事が終わると、梅田さんが一日の売り上げを持っていく。
そういうスタイルだった。
こいつから仕事を学んだ覚えは一回も無い。
「だから、独立しよう」
……多分だけど。
この地獄で店舗経営する資格。
ノウハウよりも何よりも、最初に要求されるのが
強い大阪スキル
これなんじゃないのかな。
大阪スキルなしで、この無法地帯で商売できるわけが無いんだ。
だって奪えばいいんだもの。
それをさせないためには「奪うのはリスクが高い」と判断させられる程度の実力。
これだろ。
すると梅田さんは
「……上手く行くでしょうか?」
おそるおそる、という感じでそう言った。
俺はそれに
「行くさ。俺がさせる」
勢いもあったけど、自信もあった。
だから言い切った。
自分の胸を叩きながら
「俺の大阪スキルは海遊館だ。観光名所の大阪スキル……だから任せてくれていいよ!」
安心させるために、自分の大阪スキルの名前を明かした。
そのときだった。
俺との会話で希望を見出しつつあった梅田さんの身体に。
……複数の蛸の触手が巻き付いた。
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