第14話 非情なる決断
「きゃあああああ!」
「ゲヒャゲヒャゲヒャ! おでを放っておくとは油断したなぁ、従業員ども」
下品な笑い声を立てながら、多古田が立ち上がった。
触手で拘束した梅田さんを吊り上げながら。
「梅田さん!」
多古田の触手は梅田さんの胴体に巻き付き、彼女を吊り上げている。
その触手1本の先端は、梅田さんの首筋を這い、くるりと巻いて、口の中に侵入しようとしている。
別の触手はパーカーの首元から服の中に侵入し、なんかしていた。
嫌悪感からか、涙を流している梅田さん。
助けないと!
梅田さんは、幸い両手が自由なので、口の中に入ろうとする触手と、首元から服の中に侵入している触手を外そうとするけど、上手くいかない。
多分、単純な腕力が違い過ぎるんだ。
クソ……!
「卑怯だぞテメエ! 梅田さんを離せ!」
「グヘヘヘヘ。知るかボケェ! ここ、地獄の大阪では卑怯なんて言葉は誉め言葉だべ」
ゲスの表情で、多古田は言う。
そしてその細い目を少し見開いて、こう言って来た。
「……さあ、お前の大阪スキルを封印するべ。……そこの冷蔵庫に納豆のパックがあるべ。それを食うだ」
指で冷蔵庫を指し示す多古田。
……なんだって?
納豆を食べると大阪スキルは使えなくなるのか?
俺は驚愕する。
無敵の超能力だと思っていた大阪スキルにそんな弱点があるなんて。
そんな俺の様子に、多古田は強者の余裕を見せたのか。
こう言って来た。
「……目覚めたばっかりなら知らんかってもしょうがないべ。……納豆を食べると、大阪スキルは納豆を消化するまで使えなくなるだ」
勝ち誇ったように。
……そうなのか。
じゃあ、これから俺は、納豆を食べることができないんだな。
もっとも、ここを上手く切り抜けることが前提だけど……
そのときだった。
「逢坂さん!」
梅田さんが吊り上げられながら、言って来たんだ。
「力を貸してください!」
……力を貸して……?
助けてくれってことか……?
でも……今の俺ではキミを助けることは出来ない……
多古田がそれを許さない。
助けたいのはやまやまだけど……
だから……ここは「ゴメン無理だ」というのが正しいんだろう。
実際無理だし。
だけど……
俺は言ってしまった。無責任にも
「ああ、もちろんだ!」
無駄に力強く。
その瞬間だった。
「大阪スキル発動!」
再度、梅田さんが大阪スキルを発動させていた。
その左手に現れる本。
そして素早くページを繰り、右手を翳して宣言した。
「源氏物語! contentsサーディンランブラスト!」
翳した右手は多古田に向かっていて。
その右手から、輝く小魚の奔流が多古田に向かって殺到し、再び多古田が吹き飛ばされる。
同時に、梅田さんの拘束が外れた。
落下し、床に尻もちをつくが、大きな怪我は無いようだ。
せき込んでいる。涙目で。
良かった……
そう思うとともに。
俺は決断していた。
……多古田をもう、放ってはおけないと。
俺たちがここを出て独立することを阻むのなら、やるしかない。
でないとまた、梅田さんが狙われる!
俺は駆けだす。
拳を構えて。
壁に叩きつけられたまま、こちらを見る多古田。
その目は闘志を失っていなかった。
「この青二才がぁぁぁぁっ!」
触手と千枚通しの嵐で迎え撃ってくる。
矢継ぎ早に飛んでくる触手と、千枚通しの連続攻撃。
その全てを、出現させた海亀の甲羅の盾で防ぎながら……
俺は地を蹴り、一気にその距離を詰めた。
そして、気合の声とともに、右拳を突き出した。
「シャークバイト!」
その瞬間。
バクン! という音と共に。
多古田の上半身が、不可視のホオジロザメに食いちぎられて消失した。
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