第15話 この地獄から出る方法
「……助かりました」
梅田さんが落ち着いたのか説明してくれた。
梅田さんがやった「源氏物語」は、与謝野晶子が現代語訳をした作品。
そこから転じて「自分が敬意を持ってる相手の大阪スキルをコピーする」能力。
制限は「その対象が生きている場合、使用許可を取らなければならない」
「1回許可を取れば後は許可を取らなくていいの?」
「1回大阪スキル発動を止めてしまうとリセットされます。そして、1度にコピーできる大阪スキルは1つです……」
なるほど……。
梅田さん、とことん仲間を増やすと有利になるタイプの大阪スキルなんだなぁ。
そんな梅田さんを売り飛ばそうとした多古田……とことん、ろくでもない奴だったんだな。
もう、死んでしまったヤツではあるけど……。
そう思い、壁際に転がっている上半身を無くした死体を見つめた。
後で道頓堀に捨てに行かないといけない。
でないと腐敗したら地獄だし。
しかし、源氏物語……
条件が敬意か……
「……なあ、梅田さん……なっちゃんって呼んでいい?」
……言ってしまってから、やっちまったと思った。
梅田さんは俺に敬意を持ってくれている。
その確証を得てしまったから、つい言ってしまった。
……前からそう呼びたかったから。
……引いてないかな?
ちらり、と梅田さん……なっちゃんを見た。
なっちゃんは……
「ええ、良いですよケンタさん」
そう、ニコリと微笑みながら言ってくれた。
おお……
向こうも名前呼び……
なんという距離の近さ。
テンション上がるわ……
俺は喜びのあまり、踊り出しそうになった。
そんなときだった。
なっちゃんの目が、驚愕に見開かれたんだ。
その視線の先は……多古田!
俺も慌ててそちらを見た。
すると……
そこに、多古田の姿が浮かび上がっていたのだ。
上半身裸の多古田が……
『おではまた死んだのか……?』
その、多古田は呆然とした感じだった。
自分の死という大きすぎる出来事を、受け止められないようだった。
……そうか。こいつ、多古田の霊か……
どういう理由か分からないけど、多古田は霊としてここに居て。
そしてもはや、何の力も無いらしい。
するとそこに、天から巨大な存在が語り掛けてくるような声が降って来た。
お前は「大阪でブラック企業を経営し、従業員を泣かせた罪」を反省せず、ここでも同じことを繰り返したな……。
その声は多古田を糾弾していた。
そんな声を聞き、多古田は震え上がる。
『そ、そんな! 馬鹿を食い物にして何が悪いべ!? おでが使い潰してたのは、おでの会社以外では就職口が無いゴミばっかりだべ!?』
慌てて弁明する。弁明するも……
天の存在は溜息をついた気がした。
そして
……全く反省しておらんようだな……分かった。
お前は、無間地獄行きだ。
現世への復活は無い。
……天の声の容赦の無い裁き。
同時に。
多古田の霊の周囲に、白い腕が出現し、彼を地の底に引きずり込んでいく。
『ひいいいいいいいい!』
多古田の身体が沈んでいく。
地の底へ。
彼の姿が完全に見えなくなるのに、10秒の時間も要らなかった。
……そして。
俺となっちゃんは、そこに2人、取り残された。
突然の天の裁判と、天の声。
そこから分かったことがある。
ひとつは、この世界を抜ける方法。
それは、もう一度死ぬこと。
死ねば、こことは違う別の世界に行ける。
そしてもうひとつが。
死んだときに、巨大な何かの裁判を受けて、そこで認められなければダメだということ。
認められなかったら、おそらくここより酷い場所に送られる。
……もしかしたら現世に戻れるかもしれない目が出たってのに。
希望よりも問題の大きさに途方に暮れてしまう……!
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