2章:妖僧

第16話 洋服を買いに行こう

 色々あったけど、俺たちは冷静に今やらねばならないことをやった。


 多古田の死体は道頓堀に捨てて来て、荒れた店内を整理した。

 そして通常業務を続けた。


 道楽蟹を狩って。

 その甲羅と肉を分け。


 肉は食べ物屋に売り払い、甲羅は職人相手に売り捌く。


 ……よっぽど、俺たちピンハネされてたんだな。

 バカみたいには儲かってはいないんだけど、それなりにね、稼げるんだよね。

 必要なものを買いそろえられる程度には。


 多古田を排除するまでは、買い物なんて全てが決断が要る行為で。

 買い揃えるなんて夢のまた夢だったのに。


「食べていけますねぇ。普通に」


 ある日。業務の合間になっちゃんがそんなことを言う。

 俺もレジで帳簿をつけるため手を動かしながら


「そうだね。生きていくだけならこれで十分だよな」


 それに同意した。


 ……とはいえ。

 ずっと気になってるんだよな。


 死んだ後の裁判について。


 多古田はそれに失敗してさらに酷いところに行ったみたいだけど。


 俺にも来るわけだよ。

 いつかは。


 ……大阪落人って、別に不老不死じゃないのよな。

 殺されれば当然死ぬし、寿命もあるみたいなのよ。


 だからいつかはあの裁判が絶対に来る。

 これは確定事項。


 ……俺、何がマズくてここに送られたんだろう?


 ここ。

 これが分からないのがとても……困る。


 悪いとことがわかんないと……改められないじゃん。

 自分で考えろ? そりゃ酷いよ。


 多古田の場合は言われてたくさいけど……他の人は皆そうなのかな?


 たとえば……なっちゃんとか。


「なぁ、なっちゃん」


「……なんですか? ケンタさん?」


 拭き掃除の手を休めて、俺を振り返った。


 ……かなり個人的なことを訊くわけだから。

 慎重に言葉を選ぶ。


 ……よし。


「あのさ、詳しくは言わなくて良いんだけど……ここに来る前、自分の何がまずくて地獄行きなのか。それを教えて貰えたのかな?」


 ……どうかな?

 失礼じゃないよな?


 ……そうじゃありませんように……!


 すると


「そうですね……言われましたよ。……内容を訊きたいですか?」


 ちょっと苦笑交じりの言い方。

 いやいやいや


「そんなこと聞けないよ。言わなくて良いから。そう言ったじゃん」


 手を振って否定する。


「軽い冗談ですよ。……ひょっとして怒りました?」


「怒らないよ」


 そう言って、笑いあった。

 そして


(そっか……なっちゃんは自分の罪を知ってるのか)


 で、俺は知らないと。

 ……これは不味いよな。


 なんとかしないと。


 ……そういうのが分かる大阪スキルの持ち主、居たりしないかな……?


 と、そういうことを頭の片隅で考えながら

 彼女に言った。


「……だいぶ余裕出て来たし。そろそろなっちゃんの洋服買いに行こっか?」


 彼女は少し驚いた顔をした。

 予想してなかったのか。


 ……パーカーとジーンズしか洋服が無いのは可哀想過ぎるだろ。

 女の子なのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る