第3話 路上での出会い

 ど、奴隷って……?

 冗談だろ?


「何言ってんですかアンタたち。いきなり」


 冗談にしても性質たちが悪い。

 俺は思わず苦笑いを浮かべる。

 ちょっと引き攣ってたけど。


 すると


「オイ、畳んじまえ。ただし、骨は折るなよ。売値が下がるからな」


 俺のそんな言葉を無視して、男たちが展開していく。

 そこで思った。


 まずい。逃げよう。


 俺は回れ右をして走り出した。

 ちょっと受け入れられない。信じられない。


 だけど、このままここにいたらマズイ。

 それを感じ取ったから、逃げたんだ。


「待ちやがれー!」


 後ろに、男の怒鳴り声を聞きながら。




 なんだったんだ一体……。


 俺は走りに走って、安心できたとき。

 俺は立ち止まって考えることができるようになった。


 ……靴、もうダメになったかもしれないけど、そんなこと言ってる場合じゃなかったしな。

 仕方ない。


 変過ぎるけど、あれはヤバかった。

 リアリティがあったよ。


 現代日本で奴隷なんて。

 ありえないのに。


 あのままあそこにいたら、奴隷にされていた。


 それが、確信を持って言えた。


 汗が出る。ハンカチあったっけ?


 ポケットを探って、それを見つけ。

 俺は汗を拭った。


 ……一息、つけるなぁ。


 そう思っていたら


「やめてぇ! やめてぇぇっ!」


 ……女の子の悲鳴が聞こえたんだ。


 それを聞いたとき。


 俺は反射的に立ち上がり駆け出していた。




 女の子が襲われている。

 どこかで。


 衝動的だった。


 声の方向に走る。

 靴、運動靴でもないのに。

 走りにくいし、多分靴が壊れる。


 そして


 俺は駆けつけた。


 そこは路上だった。

 弁当屋の前だった。


 弁当屋の前の歩道で、小柄な女の子が襲われていた。


 黒髪、ボブカットの女の子だ。パッと見た感じ、顔立ちは高校生くらいに見える。

 目が大きくて、全体的な印象は大人しそうな。

 本来は可愛い感じなんだろうが。


 今は泣いていた。

 泣きじゃくっていた。


 髪はボサボサで髭も剃っていないムキムキの荒くれ男たちに群がられて、押さえつけられ、着ているパーカーやらジーンズやらを脱がされそうになっている。


 荒くれたちは全員興奮した、下卑た笑みを浮かべて、手を動かしていた。


 女の子の泣き叫ぶ声を完全に無視して。


「うわあああああん! てんちょー! 助けて下さいー!」


 ……驚いたことに。

 通行人、普通にいるのに。

 誰も彼女を助けようとしない。


 彼女は必死で助けを求めているのに。

 それに何も感じないのか?


 ……それに、警察が怖くないのか?

 こんな路上で女の子を襲うなんて。


 どういうことなんだろう?

 それをこのとき俺が平静だったなら、そんなことを考えていただろう。


 だけど


 ……このときの俺は、そんなことを考える余裕が無かった。


「このクズどもがあああああ!」


 衝動のままに、俺は荒くれ男の1人の頭を蹴っ飛ばした。

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