第4話 大阪スキル

 俺が荒くれの頭に飛び蹴りを喰らわせると。

 男の仲間たちが激高した。


「てめえ! ルーレットの邪魔をするんじゃねぇ!」


「ルーレット! ルーレット!」


 口から唾を飛ばしながら、俺に向かって怒号を飛ばす。

 だが、俺の方もまともでは無かったから、続けて荒くれの頭を蹴ろうと動く。


 蹴るしかない!

 殴りでは倒せない!


 予感としてあったから、俺は執拗に蹴りを繰り出した。

 格闘技なんてやったことないから、適当だ。

 いや、俺は大真面目に蹴ってるんだけど、素人なんだから仕方ない。


 だけど。


 荒くれたちは喧嘩慣れしていて。


 女の子を乱暴する手を休めて、2人ほど輪姦行為の席を立って俺に掴みかかって来たんだ。


 肝が冷える。

 だが、闘志は消えなかった。


 俺は奥歯を噛み締めて、相手の闘志を挫かせようと、俺は荒くれの顔にパンチを繰り出した。

 だけど


 ……相手は喧嘩慣れしていた。2回目だけど。


 荒くれは俺のパンチを受け止めて、腕を捩じり上げてきた。


「うぎゃあああ……」


 痛みに、俺は動けなくなる。

 力の差は歴然だ。


 ……俺、本当は殴り合いの喧嘩で勝ったことなんて無いんだよ。

 いつもこうなんだ。


 弱いものいじめだとか、迷惑行為だとか。

 そういうのを見ると、つい頭に血が上って突っ込んでしまう。


 で、やられる。


 そんな生き方していたら、いつか殺されるよなんて。

 友達連中には言われていたし、それが間違いだなんて思わないけど。


 ……後悔したことが無いんだよな。

 馬鹿だよなぁ……俺。


 でも


 ……俺を叩くために荒くれがいくらか外れたはずだ。

 あの子が逃げ出す隙が出来たかもしれない。


 それさえできたなら、俺は満足だ。

 ボコられる甲斐がある。


 ……殺されるかもしれんけど。


 そう……思ったときだった。


 女の子の声が聞こえたんだ。


「大阪スキル発動!」


 ……大阪スキル?


 腕を捩じられる痛みの中、その聞き慣れない言葉に、俺は一瞬冷静になった。


 視線を、あの女の子に投げたんだ。


 ……あの女の子は、荒くれの拘束から抜けて、立ち上がり、こちらを向いていた。

 そして逃げないで、左手に開いた本を持ち、そして右掌をこちらに向けていたんだ。


 目は怯えていた。怯えていたけど……

 はっきりとした意思を込め、俺を見ていた。


「みだれ髪!」


 その言葉がトリガーだったのか。

 女の子の右手が光り……


 ――同時に、俺の身体に物凄い力が湧いて来た。


 俺は思った。


 俺の腕を捩じり上げている奴が居る。

 外そう。


 そう思ったら、あっさり外れた。

 そして捩じっていた奴を見た。


 荒くれたちの驚愕する顔。

 ……正直に言おう。


 なんだか、気分が良かった。


 良かったけど。

 俺の頭の中にあることはひとつだけだった。


 こいつらを追い払って、あの子を助ける……!


 腕を振るって、平手打ち。

 なんだか、拳を使うと殺してしまう気がしたので。


 すると


「ぶべらああ!」


 ぶっ飛んだ。

 そして弁当屋の自動ドアにぶつかって、崩れ落ちる。

 ……完全にのびているようだった。


 おお……!


 やった俺が驚愕した。


 その様子に勝てないと判断したのか


「引けッ! ルーレットは中止だ!」


「女はこいつだけじゃない! こだわる必要はないんだぁぁぁっ!」


 色々最低なことをほざきながら、荒くれたちは逃げて行った。


 ……やった。

 俺は安堵する。


 ……襲われていた女の子を助けることができた。

 そう、思って。

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