第5話 地獄の大阪

「ありがとうございました……ッ!」


 そう言って、女の子は泣き崩れた。

 緊張の糸が切れたのか。

 立っていた姿勢からしゃがみ込み、涙を流している。


 ……よっぽど怖かったんだろう。


 俺としては守れて良かったと思ったから


「無事で良かったよ」


 そう言って、笑った。

 まあ俺も、歯を折られるとか骨折させられるとか。

 そういうことされなかったし。


 上々だと思う。


 しかし……


「……あれ、何なの?」


「……あれ?」


 俺の質問に、俺を見上げて女の子はキョトンとしている。

 伝わってないのかな。


 さらに、ハッキリ言った。


「大阪スキル」


 何なんだよ。

 大阪スキルって。

 まるで魔法。

 さっきの俺のパワーアップ、それの効果だろ? どう考えても。


 そんなの、俺は今までの人生で聞いたこと1回も無いんだけど。

 そう思ったから訊いたんだけど。


 そしたら彼女は


「ああ」


 その言葉に納得したのか。

 彼女は言った。


 全然関係の無いことを。


「……ひょっとして、死んだばかりの方なんですか?」


 え……?


 帰って来た答えに、俺は「そうじゃなくて大阪スキル」と問い返す前に。

 驚愕で絶句した。


 死んでるって……


「いや、生きてるけど。キミだってそうじゃん」


 言い方からすると、ここの人間は死んでて当然みたいな言い方だし。

 そう問い返したら


「いえ、死んでますよ私たち。ご自覚無いんですか?」


 女の子は真顔で言う。

 冗談を言ってる感じには見えない。


 ……えっと……

 俺、死んでるの……?


 いつ死んだの……?


 呆然とする。

 分からないし、全く自覚が無かったから。


「……何らかの理由で即死されたんですね。ラッキーだと思います」


 私なんて交通事故で内臓破裂して、2時間くらい苦しんで、ですからね。

 まぁ、そのせいでここに来ることの事前説明を受けられたんですけど。


 そう、自嘲気味に言う。


 ええと……


「……ちょっと受け入れられないんだけど、キミが嘘を言ってるように見えないんだよな」


 俺は正直に、彼女に自分の想いを告げた。

 到底信じられないから。死後の世界なんて。

 ……だけど同時に、彼女を疑う気も全く起きなかった。


 そしたら彼女は頷きながら


「でしょうね……私だって、事前説明なしでここに来たならそうなると思いますよ」


 そう、言ってくれた。

 そして教えてくれる。


「信じる信じないはあなたの自由ですが、ここは地獄ですよ。地獄の大阪……」


 彼女は少し、自嘲するような表情でそう言った。


 地獄の……大阪?


 その答えに対し、彼女は「ええ」と言い、続けて


「生前大阪を侮辱する行為を行った罪人が送られる地獄です」


 ……え~~~~

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