第6話 その名は梅田さん
生前大阪を侮辱した罪人が送られる地獄って……
俺、そこまで悪いことした記憶が無いんだけど……?
それに、目の前のこの子……
この子だって、そんなに悪い子に見えないっていうか……
むしろ、すごく良い子に見えるんだけど……?
大人しそうだし。
可愛いし。
それに、荒くれから自由になってもさっさと逃げださずに、俺に「大阪スキル」ってやつを使ってくれたし。
そんな子が、地獄……?
ちょっと、理不尽過ぎない?
「そんなメチャクチャな……!」
俺は思わずそう呟いていた。
すると彼女は
「私だって、最初はそう思いました。けど、しょうがないんですよ。そういうものなんですから」
諦めの溜息を洩らす。
……おそらく、彼女の言っていることは本当だ。
それを俺は納得してしまった。
……ここ、地獄なんだ……!
地獄って……針の山や血の池地獄がある世界じゃないのか。
生前の世界とあまり変わらないんだなぁ……見た目は、だけど。
そう、俺がショックを受けていると
「で、大阪スキルですが」
やっと、女の子がそっちの話題に触れてくれた。
聞きたかったことだったから、俺は意識をそちらに向ける。
彼女の話す言葉を聞き逃さないために。
「……私たち
と、ここで。
女の子は俺の目を見つめて
「……すみません。お名前は?」
あ、そういえば。
名乗ってなかった。
「俺は逢坂健太」
「私は
遅くなったけど、頭を下げながらお互いに名乗り合う。
そっか。菜摘ちゃんか。
……なっちゃんとか呼びたいけど、それはキモいか。
「ええと、梅田さん。何を言いたかったの?」
先を促す。
すると
「大阪スキルは目覚めるのに個人差があるんです。でも、その詳細に関しては目覚めると頭の中に書き込まれるので」
大阪スキルを知らないってことは、まだ死んだばかりで目覚めて無いのかなと思ったんで、質問を質問で返してしまいました。すみません。
……謝られた。
うん。やっぱり良い子だと思うんだけどなぁ。
そんな子が地獄か……。
「ん、じゃあ俺もいつかは大阪スキルに目覚めるってこと?」
彼女の話をまとめて、そう訊く。
すると
「はい。そのときに、自分の大阪スキルを知ることで、大阪スキルってものが理解できるようになると思います」
梅田さんは俺の言う事を肯定してくれる。
なるほど……
「一応、教えておいてくれる? 目覚めるまで何も知らないのはさすがに怖いし」
そんな俺の我侭な願い。
それを……
「逢坂さんには助けていただきましたし。分かりました」
言って、説明してくれた。
大阪スキルは1人の大阪落人が1つだけ与えられる能力のテーマ名で。
その能力の詳細は、1つの大阪のイメージを能力のテーマとし、そこから連想する形で能力が決まっていくというもの。
梅田さんの場合は……与謝野晶子。
与謝野晶子の作品から連想される効果が能力になってるそうな。
俺に対して使ってくれたのは「みだれ髪」
みだれ髪の有名な歌が、女が男を讃える歌であるので、そこから転じて「他人を応援してその潜在能力のリミッターを外し、強化する」能力らしい。
……うん。つまりあれか。
他人を強制的に火事場の馬鹿力状態にしてしまう能力か。
そんなことして、骨格とか筋肉とか大丈夫なの? って思ったけど。
骨に関しては一緒に強化されるけど、筋肉はそうではないので、この状態で思い切り動いたら、後で確実に筋肉痛が来るそうな。
……なるほど。
そこまで訊いて、ふと疑問が湧いた。
訊く。
「どうしてその能力使って逃げようとしなかったの? 使えるのは他人にだけ?」
すると
「はい。与謝野晶子の大阪スキルは自分には使えないんです」
……なるほど。
つまり、他人への
さらに俺は、少し調子に乗っていたので。
「他には無いのかな? みだれ髪だけ?」
……訊いてしまった。
すると。
「ありますけど……ちょっと使う機会が無いというか、できれば必要になる状況は来てほしくないというか……」
そう言って、梅田さんは言葉を濁した。
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