第7話 マジモンの地獄

「そしてこれが重要なことなんですけど」


 梅田さんは強調する。

 それは


「なるべく早く、どこかに就職してください。そうしないとこの街では生きていけません」


 えっと……


 うん、まあ……無法具合はかなり身には染みてはいるけどさ……


 そこまで?

 それに、そこに何故無職か否かが関わってくるのか……

 生きるのにお金がかかるとか?


 すると、俺が受け止めかねていると思ったのか。

 すごいことを言われた。


「この街では無職とバレると、50メートル歩くごとに女なら強姦、男性なら強盗に遭うことを覚悟しないといけないんです」


 え~~~~~?


 何故に?


「何でさ!?」


 思わず声が大きくなったが、彼女は


「……無職だったら、何をやってもどこからも文句が来ないからですよ」


 雇い主も主人も何もありませんから。

 つまり殺しても何をしても、損害を訴える人間がいないと思われるんです。

 彼女はそう言い切った。


 そうなんだ……


 そして俺はここで、最初に見たのぼりのことを思い出した。

 あれはそういう意味だったんだ……!

 書いてたもんな。

 企業名だか店舗名だか分かんないけど、名前。


 声を掛けても返事が来なかったのも納得だ。

 会話したら犯罪に巻き込まれてしまうかもしれないもんな。


「……キミ、幟してないよね? ……無職なの?」


 ふと気づいたから、訊いてしまった。

 無職の危険性を警告してくれたけど。

 そういう梅田さんは幟をしていない。


 すると


「……幟のことはご存じなんですね。……実は、店に忘れてきてしまって」


 そう言って、彼女は俯いた。

 痛恨のミスなんだろう。


 まあ、無職ではないわけだ。


 ……だとしたら


「あのさ、これは提案なんだけど」


 俺は切り出した。

 彼女に


 彼女は俺をじっと見つめ、話を聞いてくれる。


 俺は言った。


「……キミの勤めている店に俺が送っていくから、キミの雇い主に俺も雇ってもらえるように一緒に掛け合ってもらえないか?」


 梅田さんは戦う力を持っていない。

 けれど


 梅田さんの大阪スキルは、俺に戦闘能力を与える。

 この状況なら、俺が彼女を送っていくべきだ。


 そして俺も働き口を見つけられる。

 win-winだ。


 それに対して彼女は


「……ありがとうございます。逢坂さん」


 そう、泣きそうな顔で言って、頭を下げて来た。




「梅田さんの仕事ってどういうものなの?」


「主に、道楽蟹どうらくかにの狩猟と、その肉と甲羅の販売をする仕事ですね」


「道楽蟹って?」


「体長3メートルくらいある蟹です。大阪生物」


「大阪生物?」


 そんな会話をしながら、道を歩いた。

 ……しかし


 道にさ、ときたま倒れているのよ。


 全裸の死体。

 主に男。


 で、だいたいお腹に穴が開いている。


 ……あれは何だ?


「……あれは?」


 目だけで梅田さんにその死体のことを振ると


「あれが、この世界での無職男性の典型的末路です。……身ぐるみを剥がれた上、持ち金を全て奪われて、ついでに内臓も抜かれる……」


 ……酷過ぎんだろ。

 マジモンの地獄だな……この街。


 そして、そんなことを考えながら歩き続けて


 目的の店に辿り着く。


 ここが、梅田さんの働いている店……

 掲げている看板を眺めた。


『多古田万店』


 ……たこだよろずてん、と読むのかな?

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