第85話 いつまでもそうじゃないんです
何度目の呼びかけだったろうか。
「天海さーん! お願いでーす! 私を四天王にー!」
「パパに用事なのかなお姉さーん?」
……なっちゃんの呼びかけに応える者が出て来たんだ。
駅前の空間。
当然、建物が色々ある。
声は、駅の方からしていた。
まるで機能していないのに、ただ存在する石の城「大阪駅」
そこの出入り口から
……ぞろぞろと
数十人の子供が出て来たんだ。
小学校高学年っぽい子供だった。
服装は上等な黒い洋館住まいのお坊ちゃん衣装。
なんだあの子供は?
それに……
全員顔が一緒。
それに……なんかどこか天海似だ。
ニヤニヤしている。
そして全員、手に先端が鋭く尖った材質不明の棒を持ってる。
……これ、まともじゃないな。
つーか多分、あいつら人間じゃない。
流石に分かる。
だから
「なっちゃん! 盗撮の目であのポイントを!」
情報を出したくない。
事前の打ち合わせで「あのポイント=狙撃ポイント」これを決めている。
「わ、分かりました! 大阪スキル発動!」
なっちゃんの左手の中に本が出現。
そして
「源氏物語! contents盗撮の目!」
言ってなっちゃんは目を閉じた。
別に閉じる必要は無い。
ただ、こっちの方が映像に集中できるから、なんだけど。
「……ポイントに誰もいない。何かあったんです!」
目を開いて、絶望的な声で。
……背筋が冷えた。
何があったんだ?
しかし……
今は、そこで慌ててる場合じゃ無い。
「向こうの現場に行こう!」
決断は早くしないと!
そしてそれは、なっちゃんも理解してくれているようだった。
「源氏物語! contentsハイエース召喚!」
ハイエースを呼び出してくれた。
そして素早く乗り込んで、シートベルトは締めずに発進させた。
「ハイエース拉致!」
……俺を拉致して。
「あの狙撃ビルを目的地に設定しました」
カーナビを起動させてハンドルを握る。
ちゃんと両手で。
……本は助手席か。
本を持つのは大阪スキルを使うときだけでいいんだな。
知らなかったわ。
と……俺は後部座席に乗せられながら考えた。
ちなみに全く動けない。
今の俺はハイエースされた被害者だから。
ハイエースが走る。
距離としては600メートル程度の距離だから……
スピードメーターを見ると、時速60キロ。
だったら、1分以内に着く計算か……
そのときだ。
……ゾッとした。
なんと、俺たちのハイエースの前に、あの子供のひとりがどういうわけか回り込んでいたからだ。
子供はゾッとする笑みを浮かべて、あの尖った棒を槍のように構えて佇んでいた。
……このハイエースは人を撥ねると消滅する……!
それを知っていた俺は「まずい! 下手すると詰む!」と思っていた。
なっちゃんは木津川さんの大阪スキルを引き継いでから、ハイエースの運転を練習していたけれど。
あれを回避できるドライブスキルがあるのかどうか。
そこが疑問だったから。
なっちゃん……どうする?
すると……
なっちゃんは、アクセルをべた踏みした!
必殺! フルスロットル!
……あの子供は、ノーブレーキのハイエースに跳ね飛ばされて吹っ飛んでしまう。
だけど……
何故か、ハイエースは消えない。
どうして……?
混乱する俺に、なっちゃんは
「……今はハイエース拉致モードで走ってますから、人を撥ねることが可能なんです」
説明してくれた。
このハイエース、乗り込むときにモードを決めるらしい。
拉致モードか、煽り運転か。
で、ハイエース拉致をするときは、人間を撥ねることができる。
……そうだったんだ。
でも……キミはあの不気味な子供を撥ねるとき、全く躊躇わなかったな。
なんというか……
「私もいつまでも、中央区の路上で汚いおじさんに乱暴されそうになって泣いてるような弱い子のままじゃ無いんですよ」
そんなことを言うなっちゃん。
なんというか……そこに彼女の成長を感じて、同時に
寂しさのようなものも感じてしまった。
いつまでも、庇護が必要な弱い女の子じゃないんだな……。
まぁ、しかし
「あ、リカちゃんがいる! 谷町さんも!」
……そんな感傷は、なっちゃんのその嬉しそうな言葉を聞くまでしか持たなかったけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます