第86話 串カツの思い出

「リカちゃん!」


 ハイエースを解除して。

 なっちゃんは天王寺さんに駆け寄った。


「ナツミ!」


 2人は抱き合って互いの無事を喜び合った。


 ……良い光景だ。

 仲が良いのは美しい。

 本当に。


「無事で良かった! 狙撃ポイントに誰もいないから何があったのかと思ったよ!」


「ごめんね! 天海が襲撃してきたから逃げるの最優先だったの!」


 ……なるほど。

 そういうことだったのか。


 無事を喜び合う2人は尊い。

 尊いけど


「ゴメン、それは後でお願い。先に教えてくれ」


 2人に口を挟む。


「天海はどういうヤツだった?」


 逃げられたんだから、何か情報を拾ってるはずだ。

 襲撃を掛けておいて、簡単に獲物を逃がすような相手では無いはずだし。




「なるほど……レンコンね」


 わりと定番のネタだわな。

 俺は別段驚かなかったけど


「……レンコンが能力に上がってるの、変じゃ無いんですか?」


 すごく不思議そうに天王寺さんは言う。

 んー


「レンコンなんて美味しく無いのに、って思ってるひょっとして?」


「……はい」


 ……これが若いってことか。

 食感を楽しめないのかねぇ。


 年齢差を自覚する。


「レンコンは美味いよ。硬いのが良いんだ。ボリンって感じで」


 スイッチが入ってしまって。

 向こうの世界で串カツで飲んだ思い出を思い出しながら続ける。


「あと紅ショウガ。珍しいだろ? 串カツでしかありえない具材なんじゃないかなぁ?」


 ……若い子は肉を食べたがるだろうけど。

 肉が食べたいなら、別に串カツである必要無いじゃん。


 串カツでしか食べられなさそうな具材に行かないと。


「アスパラなんてのも良いよね。アスパラも食感が魅力の食材だけどさぁ……」


「ストップ!」


 天王寺さんに止められた。

 そこで我に返る。


 ……やべー。

 今、それどころじゃ無かったよ。そういや。


「……悪かった」


「いえ、良いです。逢坂さんは大人ですから、お酒を呑む場所の思い出があるでしょうし」


 ……なんて理解のある子なんだ。

 軽く感動する。


 でも、それでまた貴重な時間を使うわけにも……


「んじゃ、俺の考える串カツの定番具材を挙げていくね」


「はい」


 同意してもらったので、挙げていく。


「レンコン、紅ショウガ、アスパラ、牛、豚、玉ねぎ、卵、チーズ……」


 すると、また「ストップ」と言われた。

 そして苦虫を噛み潰した顔で、こう言われた。


「……いっぱいありますね……それから絞るのは無理かも」


 言われてみて「もっともだ」としか思えなかったよ。

 多すぎるな、確かに。




 今度はこっちから、こっちであったことを伝えた。

 すると


「……天海の子供みたいな怪生物が大量に、と……」


 顎に人差し指を当てて考え込んで、彼女は。


「……ちょっとだけ思い当たることが」


「なんだい?」


 訊ねる。

 すると彼女は


「……生姜の食材としての意味合いに「子孫繁栄」があるんですよね」


 卵も怪しいですけどね。

 でも、卵は卵。そこから1つしか命が生まれないし、別に子孫繁栄の意味合いがある、みたいな話は聞いたことがありませんし。


 ……なるほど。


 豚も怪しいかもしれないな。

 確か豚には多産って意味合いあった気がするし。


 まあ、どっちにしろ。


 あれ、マジモンで天海の子供扱いなのかもしれない。

 天海ジュニア?


 とすると……


「子供と親は別人格……」


 俺は独り言ちる。


「それはそうですよ」


 俺の独り言を拾って、天王寺さん。

 で、俺はそんな天王寺さんに


「ひょっとすると天海ジュニアは天海の支配の外の存在かもしれないぞ?」


 俺の発言を、天王寺さんは「え?」という感じで訊いていた。

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