最終話 大阪を護る者
「天京都人の奴ら、今回はどこに攻め込んで来たんですか!?」
俺たちはなっちゃんの運転するハイエースに乗りながら、今回の襲撃の詳細を谷町さんに確かめた。
谷町さんは厳しい表情で
「大阪デパートの婦人服売り場だ。現在守備隊が抑え込んでいるけど、早く行って加勢してやらないと……」
そう言った。
奴らは転移してくるんだよな。
奴らの住処「天京都」ってのは、この世界とは別の次元にあるらしく。
そこから転移してくる。
その目的は「彼らの生活を向上させる、生活系で有用な大阪スキル使いの確保」
平たく言うと、大阪スキルを使える奴隷を求めてこの世界に来ている。
彼らの社会は基本的に皆平等であり、日々の雑事を仲間の誰かに押し付けたりしないんだそうだ。
なので、奴隷が欲しいらしい。
仲間に頼めないことを気軽に頼める他の知的生物が。
……そのために彼らは
①適当な場所にいきなり転移し、襲撃を掛ける。
②その場にいる人間に自分たちの目的を語る。その人間が目的に合致するなら拉致。そうでないなら殺害する。
③殺害を繰り返しながら、周囲の人間に「虐殺を止めたければ、我らの目的に合致した人材を用意しろ」と要求する。
……という、とんでもない行動を行っているんだよ。
ちなみに初めての襲撃から3年くらい経過しているけど、未だに天京都に攻め込むみたいな、根本的解決に至る手段は構築出来てない。
情けないけど。
……彼らが「下等生物を下僕化する仕事で、多勢に無勢は美しくない。少数精鋭こそ我らの在り様」と物量作戦に来ないのと。
転移のエネルギーの問題でもあるのか、1度襲撃があったら、その後しばらく襲撃が無いことが本当に有難いよ。今回だって前回の襲撃から半年くらい空いてるし。
ハイエースは大阪デパート……天王寺さんの古巣……に到着。
その石の城の入口で、俺は現場の警備にあたっていた人員に「ご苦労。状況は?」と声を掛ける。
その警備担当者は「死人は出ていませんが、深刻な負傷をした者も居ます。大阪四天王の皆さん、急いでください」と言った。
……分かってる。後は任せろ!
婦人服売り場。大阪デパートの5階。
元々、天王寺さんはここで働いていたんだよな。
「よりにもよってここかぁ……」
「……今は労働環境、あのときよりはマシになってるハズなんだけどね」
なっちゃんの言葉に、天王寺さんは複雑な表情。
天王寺さんは奴隷時代を思い出すからか、あまりここには来ないんだよな。
お手伝いさんにお願いして、買い物に来させることはあるんだけど。
嫌な思い出があるのは間違いないけど……品揃え良いお店なのは間違い無いからね。
そして5階に通じる階段に向かうとき。
なっちゃんは天王寺さんに言葉を続けた。
こんな言葉を。
「何かね……あのときからもう今が計画されてた気がするんだよね。私たち……」
「今が計画……?」
「この、前よりは平和になった地獄の大阪」
2人の言葉に、俺もそう思わないでも無い気がした。
昔の地獄の大阪を荒らしまわっていた極悪人の樽井を倒したのは谷町さんで。
樽井は、自分を殺す人間を自分で作った。
その最悪の趣味のせいで。樽井はそんな趣味に目覚めて無かったら、死んでなかったかもしれない。
なっちゃんと天王寺さんだって、生前2人が親友で無ければ、仲間になってないだろう。
それに、その親友がここに揃って送られて来ないと、やっぱり仲間にはなれてない。
そして今の敵である天京都人だって……。
生まれたの、ここ数十年以内の歴史の浅い生物じゃないんだよな。
彼ら曰く、数千年の歴史を持ってるらしいし。
まぁ、数千年はフいてるだけかもしれないけど、会話した感じ、誕生数十年の新造生物じゃないのは間違いなく感じるんだよ。
そんなことに思考を向けていると。
「ホホホ。大阪猿どもよ。この高貴なる天京都の民の糧となること何故拒絶するんどす?」
「遠慮は礼儀とはいえ、あまりやり過ぎるのは無礼になるんやで?」
楽しげな男女の言葉が聞こえて来た。
天京都人の話す言葉……天京都語!
「皆、気を引き締めろ! どんな京都スキルを持った奴らか分からないんだ!」
谷町さんの警告。
そんなこと分かってると言いたいが……警告しておきたくなるのは理解できる。
天京都人。
黒髪黒目で、衣装は女は着物姿。男は大正時代の洋風紳士みたいな恰好をしている。
つまり見た目は日本人とあまり変わらない。
けれど……
頭部を破壊しない限り死なない脅威的な生命力を持つことと。
全員がひとりの例外も無く「京都スキル」という超能力を持っている。
で、どうも……
京都スキルも「観光系」「食べ物系」「偉人系」で系統があるらしい。
……大阪スキルと一緒。
ここのところも、彼らが俺たちを襲うことは大昔から計画されていた気がするんだよな。
……ひょっとしたら今の状況も、大いなる存在の敷いたレールの上なのかもな。
たまにそう思う。
そんなことを頭の片隅に思いつつ、走る。
……見えて来た。
婦人服売り場で、暴れている男女がいる。
その数3名。
「燃えるから美しい! 美しいから燃える! 平伏するんやで大阪猿どもッ!」
全身から炎を立ち昇らせている男性天京都人。
身に着けている衣装は黒の上着に白のパンツ。古臭い感じのスーツ。
彼は自分を炎上させていたが、全く熱くないようで。
ハイテンションで笑いながらその炎を守備隊の人間に飛ばして、攻撃を加えていた。
「ホホホ……大阪猿め。無駄な抵抗はあかんで。やめとき」
上品に笑う黒い着物を着た女が、身体から噴き出した水を操って周囲の守備隊の人間を襲っていた。
その水は高圧で噴き出して刃物になったり……
単純に標的を包み込み……
「ぎゃあああ!」
……大火傷をさせていた。
どうも……水は熱湯らしい。
「人形たちよ。大阪猿を殺しよし。……思い切り惨く、やで」」
青い着物姿の背の低い女が、キャッキャという笑い声を立てながら、歪な造りの人形を生み出し、それを守備隊に
人形たちはデザインのレベルは低いんだけど……恐ろしい怪力を持っているようだ。
……この3名……どういう能力なんだ?
だけど……倒さないといけない奴らだ!
「そこまでだ天京都人ども! 大阪人はお前たちの奴隷じゃない! この大阪から出ていけ!」
俺の言葉にその3名が反応。
俺たちを認識し、凶悪な笑みを浮かべる。
俺たちは視線を投げ合い、意思を確かめ合い。
その戦いに身を投じた。
……この大阪を護る者として。
「大阪スキル発動ッ!」
<了>
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