第39話 ベテランの少年
突如現れた少年。
面識はない。
だけど、俺たちは知っていた。
「えっと……」
天王寺さんが声を上げた。
少年は、天王寺さんを見る。
その目はとても冷めている。
「まず、ありがとうございます。助かりました……」
言って、一礼。
そして
「……あの。失礼ですが、谷町将さんですか?」
確認する。すると
「……そうだけど? キミたちは誰?」
……ビンゴだった。
「……僕を探していたのか。それは悪かったね」
話をしながら、今俺たちは谷町少年の家を目指して歩いていた。
……歩き方、しっかりしてるなぁ。
俺、武道なんてやってないけどさ。
知り合いに、剣道で全国行ったやつがいて。
そいつの歩き方に似てる気がする。
小学生くらいの年齢だけど、その年齢の限界まで鍛えてそうな気がする。
「あの」
なっちゃんがおずおずと質問する。
「何ですか?」
そう、谷町少年は訊き返す。
すると
「……谷町さんの大阪スキルは餃子なんですか?」
そういう質問。
うーん。俺もそう思うし。
大阪で餃子って言ったら……
あれしかないよな。
「……僕の大阪スキルは食べ物系。その名前は『大阪王将』だよ」
なんてこともない言い方で、彼は言う。
やっぱり……。
「どうも有名らしいから、隠してもすぐバレるんだよね。本物を見たことは無いんだけどさ」
淡々と言う。
……どうも彼、ネイティブらしい。
過去の大阪落人の子孫……。
「……キミが馬鹿でかいメイスを軽々と振り回せるのも大阪スキルのお陰なのか?」
「そうだね。……僕の餃子に収納した道具類は、僕に完全に従うんだ。王将だからね……」
ぼかした言い方。
まぁ、能力完全開示は不用心だから、無いよな。
だからまぁ、これは予想だけど……。
おそらく、収納した道具の反動だとか、重さだとか。
そういう「道具から使用者に与えられる面倒な部分」がまるごとカットされるんじゃないかな?
だから小学生が、あんな出鱈目な武器を振るえるのでは。
……モノを収納して仕舞うだけの大阪スキルだけど。
知恵を巡らせて、強力な大阪スキルにしてる感じだな。
……ベテランの大阪ハンターなだけ、あるなぁ……
「おかえりなさいませ。あなた」
「おかえりなさいませ」
……彼の自宅マンションに戻って来た。
すると、今度は5人の嫁がお出迎え。
……俺の予想は大当たり。
俺たちの応対に出た要さん、今度は赤ちゃんを抱いていて。
他の4人、全員マタニティウェアを着てる。全員臨月に近いお腹。
「ただいま」
言って、谷町少年は要さんからはじまって、全員に唇にキスしていった。
キスされているお嫁さんたちは、身を屈めてそれに協力する。
……は、犯罪。
現世だったら。
あまりにもアブノーマルなので、ドキドキというか……その……
気を紛らすために目を逸らすと、そこにはなっちゃんと天王寺さんがいて。
二人とも赤面していた。
……まあ、なるよね。
「で、僕に何を頼みたいの?」
テーブルの席。
前は、彼のおそらく筆頭の奥さんの要さんと向き合った配置で。
今度は彼自身と対峙。
彼は、向かいの席で指を組んで、じっとこっちを見ている。
冷静で、隙の無い目で。
……ちょっと迷ったが。
彼に言う。
「……実はキミの母上の占いの順番を早くしてもらいたいんだ。どうしても知っておきたいことがあって……」
切り出すのはちょっと勇気が要った。
言ってる内容がズルの依頼以外のなにものでも無いし。
それに……
見返りに何を要求されるのか分からんし。
……そうならないように、颯爽とフラックを退治して。
フラックの首でも持参すれば、一目置いてくれるかなと思ってたんだけどなぁ……
負けはしなかったけど、楽勝でも無かったから。
ホント……想定と違う……
ちらり、と女子2人を見た。
……ちょっと緊張してるな。
さあ、どうでるか……
彼は……
「なるほど。……そんな頼み事をホイホイ聞いていたら、僕の母の順番待ちが全く意味の無いものになるよね? それは分かってるのかな?」
冷静に、もっともなことを言って来た。
……予想の範囲内だ。ここまでは。
「無論、見返りは用意する……彼女らの身体以外なら、何でも!」
俺はそう言って、テーブルに額を擦り付けた。
すると……
「……ハァ?」
……心底、呆れたような声を出された。
彼に。
んん……?
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