第38話 餃子使いの少年
「源氏物語! contentsヒーリングスペル!」
なっちゃんのコピー技で、天王寺さんの傷と麻痺を癒していく。
ものの30秒くらいで、天王寺さんは起き上がってきた。
そして
「……ありがとうナツミ……あと、特に逢坂さん」
彼女はそう言って、俺となっちゃんに頭を下げた。
全く……なんとか倒せて良かったよ。
無生物支配ってさ……思考で指示するんだよね。
あと、攻撃するのはあくまで支配された物質であって、天王寺さんでは無いんよ。
つまり……
麻痺してても、一回よがらせて下僕にした物質は、半径3メートル圏内に存在したら再度指示を出せるのよ。
で、指示さえ出せればあとは大太鼓が勝手にやってくれる。
そこに気づいて……なんとかなった。
「私の考えてたことをそのままやっていただけたので助かりました」
「いやあ、別に良いよそのくらい」
美少女にお礼を言われて、照れる。
後頭部を掻いて俺は照れた。
「……私からもありがとうございます」
なっちゃんにも頭を下げられる。
うーん……にやけそうになる。
別に下心は無いんだけど……!
そんな感じで、俺は油断していた。
勝ったと思っていたから。
……この戦いに。
だから全く予想していなかった。
屋根伝いに走って来た影が、俺たちの目の前に飛び降りて来たんだ。
ピエロを彷彿とさせる風貌。
丸眼鏡。
さっきまで戦っていた相手。
ただし、片腕が無くなっていた。
……それは手負いのフラックだった。
……俺たちは動けなかった。
さっき、散々苦労して撃退した相手が、また出た。
手負いみたいだけど……
どうしよう……!?
俺は混乱する。
キャパオーバーだ。
そしたら
「伏せて!」
……少年の声がした。
俺たちは従った。
その、強制力みたいなものがあったんだよね。
するとだ。
ドン! ドン! ドン!
3発、銃声が轟いて。
着弾したのか、目の前のフラックがよろめいている。
「
再び少年の声。
今度は俺はそちらを見た。
するとそこには
大きな拳銃を、1個の餃子に変えて、腰のケースに仕舞っている少年の姿があった。
その姿は……
黒い、多分防刃素材なんだろうか?
明らかに軍か警察用に見えるジャケットに身を包み。
同色の長ズボンを穿いた、髪の長い少年だった。
顔つきは凛々しい。年齢は明らかに中学生に届いていないのに。
その髪の長さは背中に届く程度で、それを後ろで三つ編み状態で、1本に括っている。
「グアアアアッ!」
獣の声をあげて、フラックがその少年に特攻をかけた。
もはや、こうするしかないと思ったのか。
それはかなりのスピードだったが、この大阪生物のトップスピードを知っている身としてはハッキリ言える。
……こいつ、もうダメだ。
それを少年は知っているのか。
腰のケースから別の何かを取り出した。
……それはやっぱり餃子で。
彼は言った。
「
それと同時に。
一瞬前には1個の餃子だったものが、変わっていた。
……金属製の長いシャフトの先に、馬鹿デカイ刺付き鉄球が設置された両手持ちの武器。
ありゃ、メイスだな。知ってるんだ。TRPG知識だけど。
しかし……なんであんなものを……小学生が持てるんだ?
いくら男でもありえんだろ……? 筋力というか、体格的に……。
だが少年は、そんな俺の思いを無視するかのように。
その巨大メイスを軽々と両手で持ち、飛び掛かって来たフラックを殴り飛ばした。
「グエエエエエエエッ!」
潰れた蛙のような悲鳴をあげて、その一撃でフラックがミンチになった。
……俺たちがギリギリで倒した相手を。
驚き、動けなくなる俺たちの前で
「
再び巨大メイスを餃子に変え、また腰のケースに仕舞う。
そして言った。
「……フラック相手に慌てるなら、道頓堀の深部には入らない方が良い。命は大切にするんだ」
……声変わりもしていないのに。
その少年は、まるで父親の様な威厳に満ちた声音でそう言ったんだよね。
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