第75話 そして……

 ドン! ドン! ドン!


 木津川さんの背後から、谷町さんがデザートイーグルを発射した。

 だが背後から撃たれているのに、木津川さんは敏感に反応し、横っ飛びに跳んでそれを回避した。


 ……まるで、後ろに目があるみたいに。


「私にとって背後は死角では無い」


 すばやく身を起こし、戦闘態勢を維持しながら、木津川さんは言った。


 自分の大阪スキル「盗撮の目」で、自分の背後を常に盗撮している、と。


「どうする? 厄介だね」


 ……声に含まれる、試されている響き。


 木津川さんの戦闘経験。

 それはどのくらいあるんだろうか?


 ……犯罪仮面としての、木津川さんの活動。


 それがどのくらいか分からないけど、1対多で戦い続けて来たことは間違いない。

 どうする……?


 なっちゃん……!


 少し、思うところがあった。


 だけど……


 これは指示を出すことは出来ない。

 彼女の決断に頼るしかない。


 俺は再び、海亀シールドを2枚展開し、木津川さんに向き合う。


「キミは海亀シールドを防御壁としての運用方法しか思いついていないのかな?」


 木津川さんの言葉。

 ……勉強になります。


 そう、俺は心で礼を言った。


「ウオオオオ!」


 俺は木津川さんに接近し、海亀シールドで殴りかかり……


「そりゃダメだろう、逢坂くん。それはあまりにも安直……!」


 そのときだ。


「源氏物語!」


 木津川さんの背後。

 走って接近していたなっちゃん。


「contentsシャークバイト!」


 なっちゃんの拳。

 それは背後から木津川さんの左肩に命中し。


 バクンッ!

 という衝撃で。


 木津川さんの左肩と頭部が消失した。




 ……なっちゃんに許可は出してたんだよね。

 俺の大阪スキルの使用許可。


 俺たちだって、考えている。

 大声で、コピー使用許可を出すのは敵にバレるからマズい。

 それくらい、考える。


 だから、検証していたんだ。

 言葉を交わす以外に、大阪スキルの使用許可を出せるのかどうか。


 ……まず試したのは、文書。


 今後、逢坂健太の大阪スキルは、自由に使って良い。


 こう、直筆で書いたメモを作って、それを見て貰った。


 ……結果は無理。

 文書での許可は出来ない。


 だけど……


 なっちゃんが大阪スキルを発動させた後、その場で作ったメモで許可を出す。

 これはイケた。


 そして……


 言葉によらないサイン。

 これはどうか?


 例えば……

 サンダーフェノメノンを使用した直後に、なっちゃんにウィンクを送る。

 そして、なっちゃんはそれに気づいたらウィンクを返す。


 これについては、いけた。

 ただし……


 俺にその気がない場合は、無理だった。

 どうも、なっちゃんが大阪スキル発動中に、俺が意思を持って何かアクションを起こし、なっちゃんがその意図を正確に汲み取る。

 これがポイントみたいだ。


 ……そんな検証と研究が、ここで生きた。


 どうでしょうか、木津川さん……?

 満足していただけたでしょうか……?


 そう、俺は木津川さんを倒して、ショックのあまり静かに泣き出したなっちゃんを天王寺さんと一緒に慰めながら。

 ひとり倒れ伏して、死体になってしまった彼に呼びかけた。

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