第111話 この世界の真実の仕組み

「そもそもや。この世界というか、世界が存在する意味合いを説明せなアカンわな」


 言いながら大阪王。

 日本酒の入ってる一升瓶……のようなもの。

 そんなのをどこかから取り出して。


 コップに注いで飲みながら話し出した。


 俺たちは黙って聞いていた。


 大阪王は語る。


「結論から言うとやな……大いなる存在の魂の総量を増やすため、この世界はあるんや」


 ……大いなる存在……?


 その言葉で、俺は真っ先に木津川さんを思い出した。


 あの人は、この世界での経験で学んだことを「魂の卒業証書」として解脱げだつ

 大きな魂の一部になることを選んで……今は消滅してる。


 そういうことなのか?


 でも……魂の総量を増やすって……?


 大阪王の言葉。

 それは世界の秘密に迫る内容だった。


「人間の魂ってのはな、その大いなる存在の魂の欠片に、煩悩を追加して嵩増しして作られるんや」


 例えるなら……そうやな。


 この、ワシの飲んでる日本酒に、便所の水を注いで嵩増しするようなもんやな。

 お前らの「怒り」「憎しみ」「欲情」「物欲」「軽蔑」「驕り」「飽食」

 そういうもんは、その「嵩増し」や。


「……何でそんなことをするんですか?」


 天王寺さん。


 大阪王は


「不純物を混ぜることで魂の体積を増やしたいから。それ以外ないわ」


 で、と続けて……


「そんなお前らの魂が、世界に放されて、そこで様々な経験を積み、転生を繰り返すと……段々、その嵩増しで入れた便所の水が、日本酒と同じ成分に変わって行くんやな。で、混ぜもんやなく、生一本の日本酒と呼んで差し支えない状態になったとき……大いなる存在の一部に還り、大いなる存在の魂の総量を増やす」


 ……大阪王の説明を聞く限り。


 世界ってのは、その大いなる存在というものが、自分の存在を増大させるために存在している。


 そういう風に聞こえるんだけど……?


「この世界は、人間の魂を、その『大いなる存在の魂』と同質にするために存在してるってことですか? 不純物が沢山入った品質不良の状態から、源泉と同質の状態へと変化させるための」


「そうや。お前頭良いな。よう理解した」


 大阪王は嬉しそうに笑う。

 そしてこうも言った。


「ようはこの世界は大いなる存在にとっての銀行みたいなもんや。自分の資産を増やすための装置や。……いうなれば、お前らは預金カネやな」


 衝撃。


 その言葉に


「私たちはお金じゃない!」


 天王寺さんが発作的に、という感じで言ってしまう。

 大阪王は


「……大いなる存在にとってはそうなんや。そこは認めんと」


 溜息混じりでそう応えた。

 で、と言い


 ここで、最初の俺たちの要求を突っぱねた理由について触れることを話した。


「ワシはその大いなる存在の指示通りに、大阪スキルをこの世界の人間に授けとる。それがワシの仕事やから……恣意的に、誰に与えるとか与えないとかはできへんし、せえへん」


 つまり……

 この地獄の大阪の環境が最悪なのは、その大いなる存在の意思なのか。


 樽井やら、天海。

 そして中津のような邪悪な人間に、強力な大阪スキルを与えたのも、その大いなる存在。


 その理由は……「そうしたら、自分の資産が増えるから」


 なんてことだ……どうすれば良いんだ……?


 俺は黙るしか無かった。

 あまりにも話が大きすぎて。


 だけど……


「……ようは樽井や天海が引き起こすことを、大いなる存在は望んだと? ……とんだ邪神じゃないか!」


 谷町さん……

 その気持ちは分かる。


 納得は……できないよな。


「邪神とはなんや。自分の資産を増やすために、お金に働かせて何が悪いんや。身の程は知るべきやで、オマエ」


 大阪王はしかめ面。


 お金に働かせる……FX投資みたいなものか?

 やったことは無かったけどさ。社会人経験浅いうちに死んでしまったから。


「神に仇なす悪魔だとでも言うつもりか!? ならば僕は、それで構わない!」


 そして谷町さんは。

 そんな大阪王の言葉に怯まなかった。


「僕は妻たちと子供たちに、より良い世界に生きて欲しい! それが創造神の意思に反するというなら、僕は神に反逆する!」


 ……谷町さん。


 おそらく、大いなる存在にしてみれば、愚かな預金カネの戯言なんだろう。

 でも……谷町さんはそれでは止まらないし。


 俺だって、同じ気持ちだ。


 すると……


「だったらワシと戦って、ワシを殺すことやな。……そうすれば、少なくともワシのチカラはお前らの自由になんで?」


 え……?


 大阪王は続ける。

 別に何も思っている風な表情かおではなかった。

 極めて普通に、事務的に。


 事実を話している感じだった。


「ぶっちゃけ、ワシはただのシステムや。人間ちゃう。お前らが言うところの人工知能を破壊するようなもんと考えろ。罪悪感は持つ必要はない」


 そう、決断を促すようなことすら教えてくれる。

 なので余計に……人工知能という例えに説得力があった。


 そして


「……どうする? ただし……」


 そこから続く大阪王の言った言葉は、当然のことで。

 かつ、俺たちに決断を躊躇わせるには十分な響きをそれだけで備えていた。


「ワシもシステムとして、自己防衛はする。手加減は一切せえへん。……どないする?」

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