4章:北区の女王

第43話 鍛えねば

 大阪スキルがあるからと、即いっぱしの大阪ハンターになれるわけもないし、ましてや大阪四天王との戦いに挑めるわけもない。

 俺、基礎体力無さすぎるんだよね。


 現世に居たとき、趣味は小説読むとか、漫画読むとかで。

 身体を鍛えるってことやってなかったんだよな。


 そのツケを今、払わされるなんて。


 下に黒いジャージズボンを穿き、白いTシャツを上で。

 靴は運動靴。

 ……俺は走っていた。


 大阪スキルを発動しながら。


 ……これを、ベテランハンターである谷町氏に教えて貰ったので、ここからはじめることにしたのだ。

 これ、かなり体力が付くらしい。


 大阪スキル使いの戦いでは、スタミナが一番問われるので、なにより走るのが基礎トレとしては重要なんだって。


「はぁ、はぁ、はぁ」


「ひぃ、ひぃひぃぃ」


「ほっ、ほっ、ほっ」


 桃色のジャージを着た天王寺さん。

 そして緑色のジャージのなっちゃん。


 ふたりとも大阪スキルを発動させているのでそれぞれ電動こけしと本を持ちながら走っている。


 ……天王寺さんは恥ずかしいだろうなぁ……。

 まあ、しょうがないんだけど。


 ちなみに……


 天王寺さんはフォーム綺麗で、見事にランニング。

 なっちゃんは、俺同様フォーム怪しくてギリギリランニング。


 ……やっぱなっちゃんもなんだな。


 頑張ろうか。


 俺は苦しいので、走りながら考えた。

 占いで宿題の内容を教えてもらったときのことを。




「逢坂健太殿……あなたがここに堕ちた理由は……エックスで大阪サゲネタにいいねとリポストをしたことです」


 ……えええ~!


 そんなのあんまりじゃないか!

 あんなのただのネタじゃんか!


「そんなんあんまりじゃないか!」


 大阪人はネタにしたら地獄行きなのか!?

 何か!? 大阪人は天竜〇か!?


 そう言って思わず騒ぐ。

 すると


「……落ち着きなさい。今言ったことをそのまま受け取るのは早計です」


 淀川の魔女さんは、そんな俺を嗜める。

 俺はその言葉を聞き、ハッとした。


「……それは、自分の家に火をつけた少年が、その理由として『父さんに叩かれたから』と答えたとして』


 続いて言われたこの、淀川の魔女の言葉によって。


「親に叩かれたくらいで家に火をつけるな、と非難するようなものです」


 ……言わんとすること。

 それは、なんとなく分かる。


 この場合、直接の原因は「父さんに叩かれたから」かもしれないけど。

 真の理由は、この父親が積み重ねたこの息子との関係性の不備だろう。

 不備があったから、この少年は叩かれたことが放火の理由になったんだ。


 だからこの少年は理由を答えたけど、真の理由については口にしていないんだよ。


 ……なるほど。


 だったら、このエックスの問題の裏にある、俺の問題ってなんだろうか?




(あれからずっと考えているんだよなぁ)


 走りながら思う。

 俺のあのときの行動……何が問題だったんだろうか?


 すると


「……マズイわレイプよ!」


 天王寺さんの緊張した声が俺の意識を引き戻した。


 見ると、進路上の路上で中学生くらいのサイドテールの女の子が、おっさんたちに群がられている。

 ……幟不携帯……なんて命知らずな!


「サーディンランブラスト!」


 俺は右手を構えて、輝くイワシの奔流をおっさんたちに叩き込む。


 自由になった女の子は、起き上がって涙を拭い。


「ありがとうございました!」


 そう言って、一目散に逃げて行った。

 セカンドレイプに気をつけるんだぞ!


 俺は心で少女にそう呼び掛けた。


 ……ここ、中央区では50メートル走るたびにレイプや強盗、殺人に遭遇する。

 それを見逃さず、助ける。


 体力の増強と、注意力を鍛える修行……

 はやく一人前の大阪ハンターにならないとな!

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