第96話 谷町家襲撃

「将が!?」


 京子さんはさっきまで平静で。

 これまでもずっと平静だったけど。


 はじめて、取り乱した。


 俺はその様子に安心感を覚えつつ


「谷町さんは生きてるんですよね?」


 そこだけ確認。

 すると


「はい。命に別状は!」


 この情報を持って来た部下の女性は、そう言って頷く。

 よし。


 俺は京子さんを振り返って


「俺たちに任せてください。命に別条が無いなら対処法はありますから」


 そう言って、俺は天王寺さんに視線をやる。

 天王寺さんは、自信たっぷりに大きく頷いた。


 命に別条が無いなら、天王寺さんのヒーリングスペルがある!




 場所は……谷町さんの自宅。

 自宅マンション。


 谷町さん、引っ越しはしてなかったんだ。

 襲撃を恐れて移動してなかったんだ。


 何回か来た場所だけど。

 この現代の城とも言える、高い建物は。


 それを少しだけ、考えた。

 やっぱ無理だったんだな。

 住所変えるのは。


 時間無いもんな。




「ありがとうございます」


 谷町さんのお嫁さんの要さんが俺たちに礼を言う。


 俺たちは


「谷町さんはどちらですか?」


 そんな俺たちの言葉に


「こちらです」


 要さんが案内してくれる。

 廊下を行き、寝室へ。


 そこでは


「……来させて悪かった」


 全身に包帯を巻いている。

 そんな状態で谷町さんはベッドに横たわっていた。




 奥さんたちに看病して貰っていたんだけど。

 谷町さんは要さん以外を退室させた。


 何故、要さんだけ残すのかと思ったんだけど。


 それは、谷町さんの一言で氷解する。


「実は、息子を樽井に攫われた」


 え……?


 俺が言葉を失うような衝撃を感じている中で。

 谷町さんは続けた。


「……攫う以上、人質は無事だと考えるべきだ。だから、まだ望みはある……!」


 声が震えている。


 谷町さんの息子……それは、要さんが産んだ子なのか。

 だから要さんをここに残した。

 この話を聞く権利が彼女にはあるから。


 そして思う……。

 絶対に助けないと……!


「……何があったんですか?」


 まず何があったのか。

 それを聞かないと。




「あいつは、僕が息子と一緒にいるとき、突如襲って来た」


 何か、来客が来たらしい。

 それは、よく谷町さんの家に食料品関係の配達を行っている大阪デパートの職員だった。


 アポが無くても、商売のチャンスが訪れたと感じたとき、こういうことをしてくるらしい。

 例えば珍しい肉が手に入った。

 珍しい道具が手に入った、など。


「それに関して、僕が出たんだ」


 インターホンに出て、応対した。

 モニター越しに。


『谷町さん、こんにちは』


「なんの御用ですか?」


『実は耳寄りなお話がございまして……』


 なんか妙だな、と思ったらしい。

 顔が引き攣っているような気がしたそうで。


「すみません。今は少し、そういう状況では無いんですよ」


 そう言って、通話を切ろうとしたら


『お願いです! 助けて下さい!』


 ……泣かれた。


『あなたをこの入口まで呼び出さないと、俺殺されちゃうんです!』


 その配達員。

 男だったそうだけど。


 男性が恐怖で泣き喚く姿は、なかなかに凄まじいものがあったそうだ。


「……どうしても見捨てられなかった」


 正直、心当たりはあった。

 樽井以前の問題で、大阪ハンターの仕事で対立し、谷町さんに恨みを持っている人間は少なからずいるそうなので。


 自分が出て行きそいつを討つことで、彼が救えるのであれば、やってあげたい。

 自分の決断で誰かが死ぬのは耐えられないものがある。


 そして子供を奥さんたちに託して、谷町さんは外に出て行った。


 そこで……


「やられた……」


「どういうことなんです?」


 詳細が掴めないので訊くと


「突如、足が動かなくなったんだ」


 えっと……

 今は、動いてますよね?


 車椅子がこの部屋、無いし。

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