第36話 フラックに出会ってしまった。

 俺たちの目の前にいた存在……それは。


 赤い派手な衣装。

 どこかピエロを連想する。

 赤い縦縞が入った服。

 長袖長ズボンの上下だ。

 顔は穏やかそうな中年男性の顏。

 丸眼鏡。

 そして赤縦縞のとんがり帽子。


 ……これ、くいだおれ太郎だよね?


 いや、本物と違って人形じゃないけどさ。


 腰前に小太鼓。背中に大太鼓。

 そして小太鼓を2つのバチで叩いている。


 さっきの音はその音だったのだ。


「くいだおれ太郎……」


「くいだおれ……」


 なっちゃんと天王寺さんも、俺と同じ感想を持ったようだ。


 でも……俺は思った。


 ……こいつがフラックだ!


「皆! 大阪スキル発動だ!」


 俺は仲間たちに呼びかけながら、それを掛け声にして大阪スキルを発動した。


「大阪スキル発動!」


「大阪スキル発動します!」


 天王寺さん、なっちゃんも大阪スキルを発動した。


 それと同時だった。


 くいだおれ太郎の姿をした存在の姿が消えた。

 跳躍したのだ。


 俺たちの目の前に向かって……!


 太鼓のバチを両手で振り上げている。


「海亀シールド!」


 女子2人の前に回り込んで、俺は海亀シールドを展開した。

 それも両手で左右2枚だ。


 ガキィン! と凄まじい音がして、なんとか防ぐことに成功する。


 一撃入れた後、フラックは再び跳躍し、近場の呑み屋のような店舗のコンクリの屋根に着地する。


 ……太鼓を2つも装備してるのに、身軽だ……。


 メッチャ素早いな……。

 確か、忍者の原型である、って設定にしてる作品もあるモンスターだもんな。


「……速すぎませんか?」


 なっちゃんがそう、震え声で言う。

 俺は頷き


「そういうモンスターだからね。フラックは。……それと同名の大阪生物。推して知るべし、だ……」


 すると、俺たちが見ている前で……


 フラックが、太鼓を外しはじめた……


 そしてするすると留め金を外し、投げ落とした。


 ……ドスン!


 なんだあれ……?

 中に砂でも詰まってるのか?


 太鼓の落ちた音がね、あまりにも重すぎた。


 そんなものを2つ背負って、あいつはさっきの動きをしたのか……!

 俺は絶望的な気分になった。


 フラックはそのまま、屋根の上でピョンピョンとジャンプする。


 そして


 次の瞬間、その姿が消えた。


 同時に天王寺さんが叫んだ。


「危ない!」


 アッハーン!


 俺の背後で、喘ぎ声。

 その声に反応し、前に飛び出して転がった。


 慌てて振り返り、向き直ると。


 ……そこにフラックがいた。

 さっきまで俺がいた場所のすぐ後ろ。


 血の気が引いた。


 フラックは、動きが阻害されているようだ。

 これがなければ、俺はやられていた……!


 ……ひょっとして、フラックの衣服を下僕にしたのか?


 それで、フラックの衣服に「フラックの邪魔をしろ」と命令した?


 色々思ったけど……


 ……考えている暇はない!


 俺は地を蹴り、可能な限り速く、接近して腕を振り上げる。


「シャークバイ……」


 そう、必殺のシャークバイトを叩き込もうとした瞬間だった。

 フラックの口がカパッと開いたんだ。


 俺の頭に電気が走る。

 シャークバイトを中断し、すぐさま真横に飛び退った。

 その瞬間


 ブアアアアアアッ!


 輝く息が吐き出される。


 ……吹雪のブレスか……!


 それと同時に


 バリッ!


 ……フラックが自分の動きを阻害する衣服に逆らって、無理矢理動いてしまう。

 その結果、服の上半分が破れた。

 北斗の拳の拳法家みたいに。


 ……上半身裸のフラックは、細マッチョの肉体だった。

 忍者の体型……!


 フラックはそのまま、バチを捨て、眼鏡まで外した。

 外して、捨てる。


 これは、きっとフラックの本気の構え……!


 こきり、こきりと拳の指を鳴らすフラック。

 ……ゲームと同じなら、あの手は剣と同じ鋭さのチョップを繰り出すはずなんだよな……!


 ……フラックの傍には誰もいない。

 皆、退避した。


「サーディンランブラスト!」


 俺は輝くイワシの奔流をフラックに叩き込む。

 フラックは鳥の羽根の動きで、舞うようにそれを躱す。


 ――なんて生き物だ!


 アッハーン!


 喘ぎ声と同時に。

 フラックが捨てた大太鼓が、フラックに向かって飛んでいく。


 ……天王寺さんの無生物支配!


 空中に居るから、回避できまい。

 そういう目論見があったんだろうけど


 ……フラックは俺たちの予想を超えていた。


 空中でくるりと方向を変え、飛んで来た太鼓を足場に跳躍した。

 そしてまた、別の建物の屋根の上に着地する。


 ……どうしよう。

 メチャクチャつええ……!

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