第88話 不死身の秘密

 キャベツを守れ……

 何でだ……?


 何でって……

 そりゃ、天海にとっても重要だってことだろ?


 どうしてだ……?

 食うのか?


 天海も……?


 んな、アホな。

 生キャベツが好きな奴がそんなボコボコ居てたまるかよ!


 天海にとって重要なキャベツ?


 キャベツ……


 ここで、俺の生前の思い出が蘇る。




 面倒見のいい先輩社員に連れられて、串カツの店で呑んだんだ。

 アフター5の酔客のひしめくカウンター席。

 並んでそのガタイのいい先輩と座って、串カツとビールで呑み、食いまくった。

 そして、そのときに言われた言葉だ。


「串カツ食い過ぎて胃もたれしてムカムカしてこないか?」


 そっすね、と答えると。


「そのために、キャベツがあるんだよ。これを食うとムカムカが抑えられ、リセットされるんだ」




「キャベツを奪えー!」


 俺は気づいてしまった。

 キャベツの意味を。


 ……二度浸け禁止の効果は、キャベツを食うとリセットされる!


 考えてみれば、変なんだよ。

 二度浸け禁止の効果、普通に考えると敵味方関係ないからな。

 岡の大阪スキルだって制限されるのに。


 何故単騎で寄越さない?

 何故一緒にいる?


 そこで疑問を持つべきなんだよ。

 つまり……二度浸け禁止には抜け穴があるって。


 そしてもう1個……


 天海が、わざわざ二度浸け禁止の抜け穴に気づかれるリスクを無視して、単騎で来なかった理由。


 それは……


 俺たちの数が多いから、無敵効果をもたらしている大阪スキル技を突破される恐れがある。

 これだろ。


 だからどうしても、護衛が必要だったんだよ。


 なんで護衛が要るんだよ?

 それは……


 自分で戦うと、無敵効果が切れるんじゃないか?

 めんどくさい、では無いはずだ。

 そんなことで、二度浸け禁止の欠点を危機に晒すのは割に合わない。


 ……何の大阪スキル技か分からなくても。

 推理でだいぶ追えるよな。


「天海が行動を起こすと、無敵効果が切れる!」


 大声で言った。

 天海の顔を見ながら。


 ……俺は見逃さなかった。

 動揺の光が目の中にあるのを。


 伊達に対人関係が問われる営業職してねえんだよ!


「……図星か。ビンゴだな」



★ここから天王寺理香子目線



 す……すごい。

 レンコン以外情報殆どない状態なのに、天海の不死身の条件について言い当ててしまった。


 これが大人なの……?

 思わず立派に成人した大人ってどういうものかを教えられた気がして。

 逢坂さんを羨望の目で見てしまう。


「……岡、僕を守れ」


「あいさ」


 天海は逢坂さんの言葉をあからさまに無視して、岡に自分の防衛を命じた。

 命じられた岡は、天海の前に立ち


「太陽の顏!」


 顔を輝かせ始めた。


 ……直感で、あれは射撃技だと悟る。なので


「散って!」


 私は声掛けをして、動く。

 目標を定めさせると、まずい。


 私は動きながら、岡の行動を見守る。


 岡の顔面に溜まっていくエネルギー。

 そしてそれを一気に解き放つ。


 破壊レーザーとして。


 だけど


「リフレクトフライカエシ!」


「ぎゃああああっ!」


 ……私の考えは甘かったみたいで。

 いや、谷町さんはその上を行ってた。


 ……状況的に、逢坂さんが一番狙われると判断したのか。

 逢坂さんの前に回り込んで、ヒャクシタ鳥を呼び出し。


 前にコピーさせた反射技を発動させたんだ。


 岡が発射した顔レーザーを、ヒャクシタ鳥は反射して。

 岡は、自分の発射したレーザーの直撃を喰らった。


「……よ……よくもやってくれたな」


 岡のTシャツに穴が開き、焼けただれた肌を見せていた。

 それに対して


「天海よ……。僕に何か言うことは無いのかな? お前のせいで、僕は生まれたんだよな?」


 谷町さんは、淡々とそう言った。

 抑えられないんだろうか……?


 しかし


「だから? むしろキミは僕に礼を言うべきなんじゃないのかな? お父さんをお母さんに引き合わせてくれてありがとう、って」


 言いながら、天海は。


「紅ショウガの子」


 その両手からポロポロと生姜を生み出して。

 その生姜が、全て10才くらいの男の子に変化する。


 そして。


「串スピア」


 空中に無数の串に見立てた材質不明の尖った棒を召喚する。

 そしてそれが、全て地面に転がった。


「拾え。我が子たちよ」


「わかりました!」


 10を超える天海の子。

 全員、顔が一緒で、同じ上等の子供服を着ている。


 そんな子が、一斉に串を拾って、構える。


 ……背筋が寒くなる。

 その異様で、悍ましい光景。


「……母さんと父さんの恨み、晴らさせて貰うぞ」


「ハァ? そんなもん存在せんだろ! 特にお前の母親! 現実逃避するなクソガキが!」


 複数の秘密がバレて余裕が無いのか、天海の言葉に乱れが出て来た。

 むしろ、こっちが彼の本性なのか。


「お前の母親の恋人が死んだのは、自業自得。カスの分際で、良い女に乗ろうとしてたからだ!」


 天海は、笑っていた。

 心底愉しそうに。


「そしてお前の母親は、樽井の子を身籠って、幸せになった! お前は1回でも聞いたのか? 母親から樽井への怨嗟の声を!?」


 ……ゆ……許せない!

 心を超能力で縛っておいて!


 谷町さんは、黙って聞いていた。

 天海のその、あまりにも許せない言葉の数々を。


「キングストーンフラッシュ!」


 そして岡が、完全回復した。


 天海はそんな彼の背後に隠れながら


「子供たちよ……男ふたりを殺してしまえ」


 生み出した子供たちに指示を出した。

 それを受けた天海の子供たちは


「うん、わかったー!」


 ゲラゲラ笑いながら、串スピアを振り上げ。

 天海の子供たちは逢坂さんと谷町さんに襲い掛かっていった!

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