第113話 存在しないはずの記憶

 大阪スキルを発動させた直後。

 遅れて、記憶が蘇った。


 ……存在しない記憶が。


「場所を変えるで。ここは戦うには向かんから」


 大阪王が、そんな提案をしたんだ。

 確かに、ここは狭いしな。

 戦いにくいし。


 だから


「分かったわ」


「そうだな」


 皆了承。

 

 そう答えて、全員で揃って階段を降りて、外に出た。

 そしてここに至る。


 ……え?


 今の、何だ?


 無理のある記憶では無いんだけどさ……

 実際、そんな提案されたら受け入れてると思うし。


 けど……


 やって……無いよ……なぁ?

 さっきまで、間違いなく今の記憶なかったと思うんだ。

 気にせいではないと思う……。


 俺は全員の顔を見た。


 皆、戸惑っている。


「さて、はじめよか」


 そこに。

 言いながら、口を拭って大阪王が空の一升瓶を投げ捨てた。

 いつの間に飲んだの?


 一升瓶には「虎殺し」と書いてある。

 日本酒だろうか……?


 ……そこにまた、存在しない記憶が蘇る。


 突如蘇った存在しない記憶に混乱する俺たちを他所に。

 おそらく大阪スキル技で呼びだした酒を、ラッパ飲みで飲み干していった。

 ……一升瓶で。グビグビと


 おおよそ、それで1分くらい掛かってるはずなんだけど。


 思わず、腕時計を見た。

 昔から愛用している腕時計だ。軍用の時計で、頑丈に作ってあり故障しないのが売り。


 まだ天守閣にいたとき。

 最後に何気なく見たときから、5分経って無いんだけど?


 ……5分でここまでやれるのか?

 あの記憶、存在することに無理がある。

 どういうことなんだ?


「ケンタさん! 危ない!」


 そんなことを考えていたら。

 なっちゃんの悲鳴のような声が。


 ハッとした。


 いつの間にか、目の前に大阪王が居た。

 彼は仏頂面で。

 見ている前で腕を振り上げて殴りかかって来た。


 俺はそれを喰らってはいけないと判断し

 両腕を突き出し


「海亀シールド!」


 ギリギリ、海亀シールドが間に合い、大阪王のパンチを受け止める。


 ……もの凄い衝撃だった。


 両手で構えた海亀シールド。

 それで受けて、後ろに吹き飛ばされそうになり、踏ん張る。


 するとまた、別の意味で存在しない記憶が蘇る。



「ケンタさん! 大阪王が来てます!」


 なっちゃんの警告を聞いた記憶だ。

 そんなの……されてないぞ?


 されてないよな?


 ……これは……なんだ?


 混乱する……意味が分からない。



 そのときだった。


 天王寺さんが叫んだんだ。

 焦りと恐怖が籠った声で


「皆! 大阪王の大阪スキル技はおそらく『行動を起こそうとするとき、先に結果に到達して、後からその記憶がついてくる』……こういう能力よ!」

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