第24話 アイツの大阪スキルの正体は……

 俺は心に湧いた疑念を払拭できないまま、あの大阪スキル使いの暴れている現場に辿り着いた。


 あたりには死体が溢れていて。

 本来は綺麗だったデパートのタイル床を血で汚している。


「当デパートはお客様以外は入店を認めない!」


 デパート警備兵がライフル銃であの女を射殺すべく発砲するも。


「切り抜き脱線ゲーム!」


 女がぐるり、と腕を大きく振るうと、振るった大きさで空間が歪み……いや、大穴が開き。

 銃弾を全て飲み込んだ後、瞬く間に閉じていく。


 何なんだあの技……!

 切り抜き脱線ゲームだと……?


 あの指でなぞった範囲が切り抜かれるのか?


 どういう仕組みなんだ……?


 天王寺さんをやったのもあの技……。


 そこまでは分かるけど、仕組みが分からない。

 だから危なくて近づけない……!


「サーディンランブラスト!」


 俺は右掌から輝くイワシの大群を模したエネルギー波を出した。

 非殺傷だけど、牽制に使える技はこれだけなんだ。俺には。


 だけど


「切り抜き脱線ゲーム!」


 またあの女が手で円を描き、エネルギー波を空間の穴に全て飲み込ませて打ち消してしまう。

 ……無駄か。


 俺がそう、手詰まり感を感じて攻めあぐねているところに。

 女は


「AVイントロダクション!」


 自身の姿をモザイクで隠し、同じく手詰まりで動けなくなっている警備兵たちに突っ込んでいく。

 荒いモザイクで姿が全く見えなくなり、銃で狙うことが不可能になる。

 ……当てずっぽうで撃てば当たる可能性はあるのだけど、その判断に移行する前に間合いを一瞬で詰めていく。


 そして


「切り抜き脱線ゲーム」


 ……両手を使って、警備兵の首筋に円を描く。


 その瞬間、血の華が咲いた。

 倒れ伏す2人の警備兵。


 これで、警備兵がいなくなった。

 ここにいるのは俺と……この女のみ。


 そこで俺は、ハッとした。


 思い出したんだ。


 ……あれは、俺が中学1年のときだった。




 俺は中学1年で性に目覚めた。

 最初、俺は自分が病気になったのかと不安になったのだが、それが学校で「性の目覚めである」と学ぶに至り。


 1か月もしないうちに、ハマった。

 自分が好んで見たのは、インターネットで見られる成人向けの漫画で。


 親に隠れてこっそり見てたんだ。


 それがある日……親父に見つかった。


 そしたら、説教された。


「お父さんの時代はな、深夜番組をこっそりと見たもんだ。時間帯が制限されていたんだぞ? インターネットで見られる今の時代はたるんどる!」


 ……多分、恥ずかしい思いをしている俺を気遣って、ギャグで終わらせてやろうという親父の優しさだったんだと思う。


 そのときに知ったんだよ。

 昔、深夜番組で「週刊おとなのえほん」という番組があったって。

 で、親父はその番組内のコーナーの「ボディペンですマッチョ」「AVイントロダクション」「切り抜き脱線ゲーム」を心待ちにしていたって。


 ちなみに、こういう内容のコーナーだったそうだ。


 ボディペンですマッチョ……ぱんイチのセクシー女優の身体に、絵筆と絵具で落書きをする。

 AVイントロダクション……アダルトビデオの紹介をする。ただし、行為のシーンは放送しない。

 切り抜き脱線ゲーム……Tシャツ以外はパンツしか履いていないセクシー女優のTシャツをハサミで切る。


 ……当時の事情に思いを馳せた思い出だ。


 それを、唐突に思い出した。


 それで、気づいたんだ。


 ……あの女の大阪スキルは、それがテーマだ。

 何だ? 観光系か? 偉人系かもしれないけど。

 食べ物系は絶対に違うよな。


 しかし……やっと攻略の糸口が掴めた気がする。


 テーマがそれである以上、各コーナーの内容から大きく逸脱する内容では無いはずだ。

 ボディペンが変身で、AVがモザイク視野であるように。


 だとすると……切り抜きは……


 そのまま使っても、セクシー女優さんのTシャツを切り抜くだけの能力であるはず。

 決して、Tシャツの上から使用して、惨劇が起きる内容であるはずがないんだ。


 ……よし。


 俺は……覚悟を決める。


 そして……首筋に手を当てて。

 突っ込んだ!


 突進する。あの女に。


 女は……狼狽していた!


 予想通りだ!


 切り抜き脱線ゲームは、セクシー女優さんのTシャツを切り取って、その身体を見るというエッチなコーナーだ。

 だから……


 


 どこまでがカバー扱いなのかだが、それは多分、骨格以外の部分だろう。

 素肌に直接切り抜き脱線ゲームを仕掛けられると、骨が見えるまで抉られる。


 だから死んでしまうんだ。


 首には重要な血管があるからね。


 ……このまま突っ込んで、ギリギリで腕を解放し、シャークバイトを決める。

 それが俺の作戦だ。


 そう、俺は考えていた。


 しかし……


「切り抜き脱線ゲーム!」


 あの女は、目の前の空間を切り取った。

 空間に開く、大きな穴。


 ……まずい!


 突っ込むわけにはいかない。

 俺は急ブレーキを掛けた。


 ギリギリで間に合い、飛びずさる。


 ……どうすればいいんだ。


 完全防備で飛び込もうとしたら、あの空間の穴で止められる。

 かといって、無防備で飛び込むのは危険すぎる。


 ……詰みじゃないか?

 そう、思い始めたときだった。


「逢坂さん!」


 ……女の子の声がした。

 振り返る。そこには


「……天王寺さん?」


 ……なっちゃんの親友の美少女、天王寺理香子さんが居たんだ。

 彼女は自信満々の笑みを浮かべながら、こう言った。


「助けに来たから!」


 なんだって……!?

 キミは……まだ無能力者のはずだろう!?

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