第3話-2
「というか、王子でありながら強化人間になるとか……おまけにあなた、よりによって犠牲にした能力が……」
さすがに食事の席だけにそれ以上は言えないと思ったが、国王をはじめとする王家の面々はすぐに飛びついてきた。
「そう! まさにそうなのだよ聖女殿! よりによって子供を作る能力を売り渡すとは、王族にあるまじき判断だと思わんかね!?」
「本人的には王太子であるわたしに子供が生まれたから、自分のぶんはいらないだろうと思ってのことだろうけどね。とうてい許されることではないよね!」
「わたくしとしては、そもそも息子を騎士にさせる気もなかったのよ! 乳母のことがあったから心の傷を癒やすためにも必要だろうと思って好きにさせていたけど、まさか魔物退治専門の部隊に入って、強化人間にまでなるなんて思わないじゃない!」
三者三様に大声で
「その手の嘆きはもう何度も聞いたし! しつこいな! だから家族での食事はいやなんだよ!」
「それだけ重大な決断を自分一人でしたということが、いかに愚かなことかわからんからだろう!」
「わぁかってるっつーの! だいたい生まれながら病弱で王族として役に立たないおれなんかいらないって、田舎に放置していたのはどこのどいつだ!」
「だからって騎士になって強化人間になるという形で反抗せんでもいいだろう!」
「反抗じゃねぇよ! 自分で自分の生き方を決めただけだ! それに文句言われる筋合いはねぇ!」
ぎゃあぎゃあと言い争いがはじまる家族に、ミーティアはあっけにとられる。
なんだかんだと言い合っているが、言いたいことを言えているというのは……まぎれもなく、信頼感が奥底に根付いているという証だ。
そう考えると、これもまたほほ笑ましい光景だと思わざるを得ない。
なにより……いつもは隊長として部下たちにてきぱきと指示を与えているリオネルが、家族の前だと途端に子供っぽくなるのが……なんとも……。
(ちょっと可愛くて……からかいたくなる気持ちもわかるかも……)
そう、
(なんだかうらやましいわ。わたくしは家族愛とは縁がないし)
とはいえ、これではいつになっても
いつまで続くか、ある意味で見物ねと思いながら、ミーティアはギャンギャンと反抗するリオネルを横目で楽しく観察し続けたのだった。
結局、食事がはじまったのはそこから十分後だ。
いいかげんに聖女様が待ちくたびれています、と家令が進言したことで、王族たちは途端に落ち着きを取り戻した。
「見苦しい場面を見せてしまって失礼した、聖女殿。招待した側でありながら客人に不快な思いをさせるなど……」
「いいえ、とんでもございません。皆様の仲がよいことが伝わってきましたわ」
「そう言ってもらえると助かる。さぁ、食事にしようか」
運ばれてきたのは心づくしの料理だ。
ゼリーのような前菜も、焼いた豚肉にベリーのソースがかかっているメインもはじめて見るもので、目にも楽しい内容だった。
「今回のことはさすがに国家として対応せねばなるまいと、神殿と国王の連名で、デュランディクスには厳重なる抗議文を送った」
食事もデザートにさしかかる頃、国王が重々しくそう切り出した。
「では、国王陛下は今回の一連の出来事は、デュランディクスの筆頭魔術師一人が引き起こしたことではなく、国家ぐるみのことだと判断されたのですね?」
ミーティアの言葉に国王はしっかりうなずいた。
「とはいえ、向こうはそれを認めぬと思うがな。おそらく
そうなることが簡単に予想できて、ミーティアも「しかたないことですね」とうなずいた。
「とにかく、このようなことがあったからには、以前のように国家間の付き合いは考えねばならぬ。五、六年ごとに行っていた使節団による交流も無期限中止だ。当然のことながらな」
「国境の守りも固めないとね。近々、リオネルには国境守護隊長という、新たな役割を担ってもらうつもりだ。なんだかんだ、国境の魔物退治に長けているのは我が弟だからね」
王太子の言葉に、ミーティアは驚いてリオネルを見やる。
リオネルのほうはあらかじめ聞いていた話なのだろう。涼しい顔でワインを飲んでいた。
「危険な任務についてほしくないとは思うけど、国の安全のためにはしかたありません。幸い【
王妃様も末息子を気遣いつつも、王妃としてしっかり国のことを考えている様子だ。
この視点が中央神殿の聖職者にも根付いてくれればいいなと思うばかりである。
ミーティアは「そうですね」とうなずき、届けられたデザートに手をつけた。
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