第3話-1

(ふぅ、我ながら完全に悪役じみていたわね)


 街長まちおさを脅した自分を振り返り苦笑しつつ、ミーティアは目の前にずらりと並んだ民を見渡した。


(とはいえ、こんなにひどい状態の一般人を放っておくことはできないし、騎士たちの物資の補給も急務)


 そのどちらも叶えようと思ったら、こうするのが一番だと思ったのだ。


「さて、最初のかた、こちらにどうぞ」


 街長に向けていたのとはまったく違う、中央神殿時代に首席聖女としてつちかった優しい笑顔を浮かべて、ミーティアは手前にいた子供をちょいちょいと手招いた。

 まだ十歳に満たない少女は、弟とおぼしき幼子二人の手を引いて、警戒心も露わにやってきた。


「……あなた、本物の聖女様なの? 弟たちの怪我を治せるの?」


 弟たちはそれぞれ顔に湿疹と、腕に大きな怪我をしていた。痛ましい姿にミーティアは胸を痛めるが、顔には出さずに三人を手招く。


「ええ、治せるわ。見ていらっしゃい。さぁ、三人で手を繋いで、わたくしの手に手を重ねて」


 右手を差し出すと、子供たちは怖々と手を載せてくる。小さな三つの手のひらを意識しながら、ミーティアは杖を握る左手に力を込めて(治れ)と念じた。


「……うわぁ……っ」


 一番最初に反応したのは、一番幼い男の子だ。


「おねえちゃん! いたいのがなおった!」

「ぼくもー!」

「……わたしのお腹が痛いのも治った……言ってなかったのに、なんで」


 大はしゃぎの弟たちの横で、姉の少女は呆然と腹部に手を当てる。

 ミーティアはにっこり微笑んだ。


「それはわたくしが本物の、それも優秀な聖女だからよ。――まだ集まっていない街の人たちにも伝えてきて。ここにいる聖女がなんでも治してくれるからって」

「うん! 聖女様、ありがとう!」


 子供たちは大はしゃぎで駆け出していく。並んでいた人々は、その様子をあっけにとられて見つめていた。


「お、おれのことはいいんで、お袋だけでも助けてやってください。年のせいであちこち痛いって、見ていても気の毒で……」

「うちの子も見てください。ずっとお腹が痛いって言っていて、下痢げりが止まらなくて……」

「おれも、魔物に襲われてなくした腕のところが、化膿かのうして治らなくて……!」


 次々と訴えてくる街の人々に、ミーティアはきっぱり告げた。


「全員、間違いなく癒やします。だからあわてず、順番に並んで。すぐに終えるから」


 ミーティアは宣言通り、並んだ人々を順番に癒やしていった。合間合間に水を一口飲む以外は、二時間かけてひたすら人々の病や怪我を癒やしていく。


 そして並ぶことができた人々が全員捌けたところで、今度は動けない病人や怪我人のもとへ向かうことにする。

 そういった重症人がいる家は、騎士たちがあらかじめ見つけておいてくれた。彼らの案内で足を運ぶと、聖女の到着を今か今かと待っていた家族がわっと駆け寄ってくる。


「お父ちゃんを助けてください! 以前は騎士として働いていたのに、魔物に襲われて怪我をしたら、ろくな手当てしてもらえないまま、こっちに帰されたんです……!」


 若い娘の悲痛な訴えに、ミーティアは力強くうなずいた。


「大丈夫、すぐに癒やすわ。そちらが終わったらあなたも元気にしてあげるから」


 ミーティアは宣言通り、寝台で痛みにうめいていた父親を癒やすと、痩せ細った娘のことも癒やした。

 幸い、寿命が近く大病を患っている人間がいなかったこともあり、ミーティアはさらに二時間かけて、街の人間を全員癒やすことに成功したのだった。

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