第3話-2

(さすがに寿命ばかりはどうしようもできないものね……。寿命が尽きて亡くなりそうという方がいなかったのは、幸いと言うべきか、なんというかね……)


 これだけ過酷な環境で暮らしているから、そもそも寿命を待たずに亡くなる場合が多いのだろう。


 なにかしら大病を患った者は、おそらくそうと気づいたときには亡くなっているという状況も充分にあり得るだろうとも思えた。

 最近建てられたとおぼしき墓も移動中にいくつか見えたし、「あと半月、聖女様が早くきてくださったら……」という恨み言も、一度となく聞くことになった。


 遺族の言葉の重みというのは、想像以上に大きいものだ。

 聖女の中には、こういった声に精神的に摩耗まもうさせられ、重症者を診るのがトラウマになっている者も多い。


 聖女と言えど、身体の傷は治せても、心の傷は癒やせない。彼らの悲しみが癒える日が一日でも早くくることを、祈ることしかできないのだ。


(わたしも、彼らの気持ちに引きずられないようにしないと)


 うつむきそうになる顔をぐっと上げて、ミーティアは街長のところへ戻った。


「宣言通り、街の人間を全員癒やしてきました。騎士たちに食料と、できれば温かい食事の用意もお願いしたいのですけど」

「……もうご用意しております」


 見れば、難しい顔で答えた街長まちおさのうしろで、炊き出しがはじまっていた。


「聖女様、本当にありがとうございます! どこも痛まないし、こんなに動けるのは生まれてはじめてです」

「食事をどうぞ、聖女様。騎士様たちも!」


 どうやらミーティアがなにを言うより先に、感謝の気持ちに駆られた街の人々が食事を用意してくれていたようだ。

 少し離れたところでは「騎士様たちに」と言って、街の男たちが芋を掘り起こしてきてくれた。


 正直、疲れてヘロヘロになっていたミーティアにとって、あたたかな食事はありがたかった。蒸して皮をいただけの芋でさえ染み渡るほど美味しく感じられたほどだ。

 騎士たちもあたたかな食事は久々だったのだろう。感動しきりという顔で食事を平らげていた。


「聖女様は土地への祈りや護符もと申し出ておいででしたな。余力があれば、そちらもぜひお願いしたいのですが」


 食事も終わりにさしかかった頃、街長が腰を低くして申し出た。


「もちろんです。では、騎士たちの今夜の寝床と、支援物資を頼むための中央への連絡をお願いできますか? あと護符を書くための紙が少ないので、あまっている布でかまいませんから、呪文を書きつけられるものをたくさん集めてください」


 ミーティアの言葉に、町の人々はすぐに動いた。あちこちからぼろ布や、剥がれた木の皮が集まる。

 彼女は杖先にまっていた宝石を外し、片っ端から守りの呪文を書きつけていった。


「これを街の外壁に等間隔に貼っていってください。壁に近づければ勝手にぺたっと貼られるから、のりひもは必要ないわ。各家庭の代表者が家の天井に貼る護符を一枚持っていけるようにしてください」

「わかりました」

「おれたち騎士が動こう」


 ミーティアの言葉にリオネルもすぐにうなずいて、護符を貼ったり配ったりするのを担ってくれた。

 それらが終わったあとは、あちこちに広がる畑におもむき、土地に祈りを捧げる。牛と羊も飼われていたので、彼らのことも癒やして、よく乳が出るように祈りも捧げた。


 諸々が終わる頃にはすっかり日が暮れており――さしものミーティアも疲労に耐えきれず、高熱を出してぱったり倒れてしまった。

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