第2話-8
なにか、ゴォォ……と低いうなり声のような音が聞こえて、全員がハッと顔を上げる。
とっさに窓から外を見ようとしたときだ。気を利かせて退室していた騎士たちが泡を食った様子で扉をバンッと開けた。
「隊長、大変です! なんか大怪我してるっぽい
「大怪我してる魔鳩?」
三人は顔を見合わせ、ほぼ同時に外へ走り出た。
ゴゥ、ゴオオ……という独特の羽音が響くほうを見れば、騎士たちの言うとおり、どこか飛び方のおかしい魔鳩がこちらに向けて飛んでくるところだった。
飛んでいる……というより、高度を上げることができずに緩やかに
騎士たちは副隊長セギンのもと、魔鳩をなんとか誘導する組と、街の住民に避難を呼びかける組に分かれて動いていた。
「魔鳩が突っ込んでくるぞー! すぐに建物の外出て避難をー!」
「こっちだ、こっちー! ここまでがんばって飛んできてくれー!」
呼びかける者、逃げ惑う者、なんとか誘導しようとする者でごった返す中、ミーティアたちも魔鳩が落ちそうなところへ向けて走った。
やがて、羽ばたくたびにガクン、ガクンと高度を落としてきた魔鳩が、なんとか騎士たちが誘導する広場のほうへ、ドウ……っと音を立てて倒れ込んできた。
「いったいどうしたんだ、今にも死にそうな飛び方して!」
「副隊長をお通ししろ! 副隊長が魔鳩には一番詳しいから!」
魔鳩を囲む騎士たちは、民の避難誘導を終えたセギンが到着するとすぐに道を空ける。リオネルがそのあとに続いた。
「セギン、どうだ?」
「これ……翼がざっくり斬られていますよ、かわいそうに。だが、かわいそう以上に、この血のにおいはヤバイです」
セギンは表情を硬くすると、すぐにミーティアを振り返った。
「聖女様、すぐにこのあたりに結界を張ってください。この魔鳩を囲むように! 魔鳩ももとは魔物です。血のにおいを嗅ぎつけて、仲間の危機だと察した魔物が押し寄せてくる可能性がある」
「わかったわ」
ミーティアはすぐに杖を掲げ、広場一帯に結界を展開した。
「まぁ、なんて高度な結界……!」
ミーティアの力を目の当たりにしたチューリが息を呑む。その彼女に向け、ミーティアは声を発した。
「チューリ様は街の人々のところへ行って、護符を貼ってきてもらえませんか? もし魔物がやってきたら危ないのは彼らなので」
「え、ええ、わかったわ」
「護符は宿に置いてあるわたしの荷物の中にたくさんあります。街の人間を一箇所に集めて、彼らを囲むように貼ってください」
「ええ!」
チューリはすぐに動く。「何人かついていけ!」というリオネルの指示で、騎士が二人彼女とともに走って行った。
「どうどう! 大丈夫だ、ちょっと傷口を見るだけだから、落ち着け!」
背後ではセギンが必死に魔鳩をなだめようとしていた。
だが切りつけられているらしい魔鳩は痛みと恐怖で混乱しているのか、ギャアギャア鳴いて暴れ続けている。
ミーティアは結界を保ちつつ、急いで魔鳩に近寄った。
「癒やしの力を使うわ! そのあいだ結界が薄くなるから、周囲を警戒して!」
「はい!」
騎士たちがすぐに魔鳩を背にして武器を構える。
ミーティアは杖を掲げて、魔鳩に癒やしの力を振るった。
「……ぐ……」
人間相手ならまだしも、動物相手……それももとは魔物だった魔鳩を癒やすのには、かなりの集中力を必要とした。
癒やしの力をあまりたくさん使っては、もともと持っている魔物としての魔鳩の魂が傷ついて、よけいに暴れ出してしまう。
必然的に集中せざるを得なくて、そのあいだ結界はかなり薄くなってしまった。
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