第2話-7

「先代の首席聖女が力のおとろえを自覚されて、交代を願い出たからよ。よくある理由ね。で、その方の推薦でわたくしが次の首席になったの」


 ミーティアの持つ聖女としての力は、彼女が中央神殿にやってきた八年前の時点でも群を抜いていた。だから次の首席は彼女で決まりという雰囲気が何年も前から存在していたのだ。


 先代の首席聖女もミーティアに期待をかけていて、自分が引くべきだと思ったタイミングで、聖職者たちにミーティアを推薦してくれたのだ。


「先代の首席聖女は、今はどこに? チューリ殿のように地方にお勤めなのか?」

「いいえ、ご結婚なさるということで引退されたの。力が急激になくなってしまって、地方勤めも難しいからって」

「聖女の力ってそんなに急になくなるのか? チューリ殿はしっかり力を維持されているようだが……」


 チューリは小さくほほ笑んで首を横に振った。


「二十代の後半に入ってから、それまでの力がほとんど使えなる聖女はわりと多いのですよ。全体の二割くらいの聖女は最盛期の半分程度の力を維持できるので、そういうひとたちが地方に行くことが多いの。わたしもこのタイプね」

「たった二割しか力が残らないのか……もっと多いものだと思っていた」

「そう話題になることもないしね。ただ、ミーティア様のお力は本当に飛び抜けたものだわ。公式の記録でもだいたい二百年に一度くらい、力の強い聖女が生まれると記されているの。今回はミーティア様がそれに該当がいとうしたというわけね」

「へぇ。二百年に一人の逸材いつざいか。そりゃあすごいわけだ」


 リオネルのにやりとしたほほ笑みに、ミーティアは軽く肩をすくめた。


「すごくても限度はあるわ。現に【くい】を直すことはできないわけだし。どうせならそれくらいの力が欲しかったわね」

「おいおい、さすがにそれは人間の領分を越えるだろう」


 リオネルがあわてて首を横に振る。チューリも真面目な顔で同調した。


「そうよ、ミーティア様。過ぎた力は本人の人生もゆがめてしまう。今でも充分すばらしいのだから、それ以上を欲するのは贅沢ぜいたくというものよ」

「……はい、チューリ様」


 先輩聖女の言葉は素直に聞くべきなので、ミーティアは軽く頭を下げた。


「とはいえ、ミーティア様のお気持ちはわかるわ。本当に、自分一人で【杭】を修理できたら、こんな苦労はしなくてもいいのに」


 どうしたものかしらね、とチューリももどかしそうにため息をついた。


「……あら、わたしったら。いつの間にか普通にお話ししておりましたわ。無礼をお許しください」

「なにをおっしゃいますの、チューリ様。かしこまらないで普通にお話ください。わたくしたちもそのほうが気が楽ですわ」

「そうそう。お偉いさんでいっぱいの中央とは違うんだから」


 ミーティアの言葉にリオネルも同意して大きくうなずく。チューリはにっこり笑った。


「確かにそうね。……うふふ、普段から聖女として働いていて、それに別に不満はないのだけど、こういう気軽な会話ができる相手はいなかったから、とても新鮮だわ」

「地方だと人員も少ないですし、民からはあがめられると同時に一線引かれてしまうことも多いですからね」


 ミーティアが理解を示すと、チューリは「本当にそれよ」と身を乗り出してうなずいた。


「ミーティア様が気さくな方でよかったわ。こんなおばさん相手で、ミーティア様からすれば退屈でしょうけど」

「とんでもない。聖女として長くお勤めの方とお話しできる機会はそうありませんもの。お目にかかれて本当によかった」


 それにチューリが、魔物が入ってくるや否や即座に中央へ逃げた地方第五神殿の聖女たちと違い、高いこころざしを持っているのもよかった。彼女とは今後も馬が合いそうだ。


 お互い、この国のために、聖女としてしっかり働こうという気持ちが一致しているのだから。


「しかし、【杭】だけじゃなく魔鳩マバトという懸念まで出てくるとは。これも中央に連絡を取ったほうが……」


 ――リオネルがそう言いかけたときだ。

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