第4話-1

 その後、方々ほうぼうからさんざん引き留められたものの(「わたしに首席聖女なんて無理ですううう!」とグロリオーサには怒られながら大泣きされた)、国境の補強は急務ということで、ミーティアはリオネル率いる第二隊とともに、再び地方を巡っていくことになった。


 さっそく出発するという日の朝、中央神殿の南の大門前で、リオネルは集まった騎士たちに対し声を張り上げた。


「おれたちの隊は第三師団から独立して、国境守備特務隊という名前に改められた。面子めんつはほぼ変わらんが、異動になった奴も、新しく入った奴も何人かいる。喧嘩するなとは言わないが、それなりに仲良く、助け合って、切磋琢磨せっさたくまして過ごすように! いいな!」

「お――う!」


 一段高いところに登ったリオネルの指示に対し、集まった第二隊――改め特務隊の面々は、元気な返事を響かせた。


「嬉しいなぁ。また聖女様と一緒に旅ができるなんて」

「女の子成分はただそこにいるだけで癒やされますもんねぇ~」

「わかる~」


 任命式のため、第二隊の全員がいったん中央に戻ったので、ミーティアも久々に会えた彼らに対し、自然と笑顔になっていた。


「わたくしも嬉しいわ。馴染んだ隊のほうが一緒にいて楽しいし」

「そう言ってもらえると照れるけど嬉しいっす」

「隊長も喜んでますよ、絶対」


 うんうんと騎士たちは大きくうなずいた。


「まずは地方第四神殿に向かいたいんですが、大丈夫ですか? チューリ殿が心配で心配でしかたないって、今にも胃痛を起こして倒れそうになってたんで」


 副隊長セギンが申し訳なさそうに言ってくる。ミーティアは「もちろん」とうなずいた。


「チューリ様にはわたくしも挨拶したいもの。北を回るあいだは地方第四神殿を拠点にできればとも思っているのよ」

「向こうはきっと大歓迎ですよ。魔鳩マバトの餌の心配もなくなったようですしね」

『クルッポー!』


 自分の話題に耳ざとい魔鳩がしっかり返事をする。その魔鳩は騎士たちに取り囲まれ「本当に真っ白だ」「可愛いなぁ」と言われ、ご満悦まんえつの表情だった。


「ミーティア様ぁ、本当に行っちゃうんですかぁ?」


 見送りには中央神殿の面々も出てきていた。

 聖女も聖職者も勢揃いで、最前列ではグロリオーサがべそべそと性懲しょうこりもなく泣いていた。


「ええ、行くわ。中央神殿はあなたがいれば大丈夫よ、グロリオーサ様。わたくしを反面教師にしてがんばってね」

「うぅ、何ヶ月か前と同じようなことを言ってるぅぅ~……!」


 グロリオーサはおいおいとまた泣きはじめた。


「地方勤めなんて大変ですよぅ~。お風呂もないって聞きますし。そんなところを回って身体を壊さないですか? 大丈夫ですかぁ?」

「恨み言を言う声音なのに、心配してくれるのね……。大丈夫よ。なにせわたくしは稀代きたいの天才聖女。どこでだろうと輝けるから」


 ミーティアは軽く肩をすくめる。

 その姿がまたまぶしく見えるのか「ミーティア様、格好良すぎぃいい!」と、グロリオーサはもはやわけがわからぬ理由で泣いていた。


 そんな彼女も最終的には、「必ず首席聖女にふさわしい働きをします」と請け合って、涙をぐいっとぬぐってくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る