第1話-3

「ん……」


 かすかにうめいて目を開けると、見慣れない天井が見えた。

 周囲を見渡そうと頭を動かすと、ひたいに置かれていた布がぱたりと落ちる。


 そういえば熱があったんだっけと思いながら手をひたいに当ててみるが、自分で自分の体温はよくわからないものだ。上がったままなのか下がったままなのか、判断できない。

 だが身体はずいぶん楽になっていて、ゆっくり起き上がっても、めまいなどを起こすことはなかった。


「何時かしら……、えっ」


 横を見たミーティアはぎょっとした。

 リオネルが壁によりかかるようにして、腕組みしてうとうと眠っていたのだ。


「……ちょっと、そんな小さな椅子の上でうたた寝して、転げ落ちても知らなくてよ」

「んあ?」


 彼のひざに手が届いたので、ゆさゆさと揺さぶって起こすと、リオネルがパチッと目を開けた。


「……あれ、いつの間にか眠ってたか……。てか、ミーティアが起きてる」

「起きてちゃ悪いわけ?」

「悪くはない。ってか元気だな……やっぱり脅威の回復力。チューリ殿じゃなくてもあきれ返るぜ」


 彼はふわぁっとあくびをしながら、両手を伸ばしてコキコキと肩のあたりを鳴らした。


 いつもと変わらぬ彼の様子にミーティアは想像以上にほっとする。

 先ほどまで見ていた夢は、夢と言うにはあまりにリアルで生々しかった。もしかしたら本当に、彼の過去をのぞき見てしまったのかもしれない。


夢見ゆめみ……という奴かしら)


 夢を媒介ばいかいとして、そのひとの過去や未来、前世なども見ることができるというのが夢見の能力だ。


(聖女の中にまれにそういったことができる者もいると聞いたことはあるけれど……実際にできる聖女はそうそう現れないし、見たこともないから、どういうものか知らなかった)


 それがまさか、こんな無意識にできてしまうものなんて。ミーティアは思わずごくりとつばを呑み込んだ。


「熱は下がったみたいだが、顔色があんまよくないな。まだどっか調子悪いか?」


 リオネルが心配そうに尋ねてくる。

 どう説明しようか悩んだが、とにかく、他人の過去を勝手に見てしまうなんて褒められたことではない。ミーティアは非難されることも覚悟で、正直に打ち明けた。


「ごめんなさい、さっきまで夢で……あなたの過去をのぞき見てしまっていたみたい」


 リオネルは「は?」と目を丸くする。

 ミーティアは少なくない気まずさを覚えながら「実は……」と事の次第を話した。


「はー……聖女ってそんなこともできるのか? なんの役に立つかわかんねぇ能力だけど、無意識にひとのあれこれが見えるのは、そりゃあ気分はよくないよな」


 驚くことに、リオネルは自分の過去を無遠慮に見られたことより、見てしまったミーティアの心情をおもんぱかってきた。


「……怒らないの? あまりにデリカシーに欠けた行為だったわ」

「意識的にやられたんなら気分は当然よくないが、無意識だったんだろう? それじゃあ、もうしかたないだろう。それに、見られて恥ずかしい過去を歩んできたとも思っていない」


 リオネルはきっぱり言いきった。

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