第1話-4

「たぶん、寝る前におれが自分の過去についてつらつら語っちまったから、それに聖女としての力が反応しちまったんじゃないか? だとしたら、こっちこそ熱があった相手に対して悪いことをしたよ」

「そんな。わたくしはそんなふうに思っていないわ」

「だったら、もうそれでいいじゃん。お互い気にしてないってことで」


 ごくごくあっさり結論づけたリオネルに、ミーティアはあっけにとられた。


「……あなたって時々ものすごく楽天的ね」

「お褒めにあずかりまして。そうじゃないとやってられないことも多いからな」


 実際にそうなのだろう。彼の過去をちょっとのぞき見ただけでも、壮絶な人生を歩んできたことは充分にわかった。あえて明るく、軽く、楽に考えないと本当に病んでしまうのだろう。


(それでも、決して歩みを止めようとはしないのね……)


 自分で決めたことを貫こうとしているのだ。どれほどつらく理不尽な目に合ってきたとしても。


「……あなたを心から尊敬するわ」

「……やっぱりまだ熱があるんじゃないか? 殊勝しゅしょうなおまえは気持ち悪いって言ったはずだが」

「失礼ね」


 ミーティアは言葉に反してくすっとほほ笑んだ。


「……なぁミーティア、ちょっと聞きたいことが――」


 リオネルがそう言いかけたときだ。「ほほほ~い」という言葉とともに客室の扉がバンッと開いた。


「話し声が聞こえたぞ。例の聖女殿は起きたのかえ?」

「げ、ロードバン」


 リオネルがいやそうな顔をする。

 ミーティアは目をぱちぱちさせて、聖職者の衣服をずりずりと引きずりながらやってきた老聖職者を見やった。そのうしろには、さらによぼよぼの聖職者が続いている。


「リオネル、こちらの方々は?」

「ああ、紹介する。ここの神殿長しんでんおさで研究馬鹿のロードバン殿。で、うしろのよぼよぼなのが、力はあるけど昼寝が大好きなポポ殿だ」

「もうちっと気の利いた紹介をせんか、口の悪い騎士隊長めが」

「いてっ」


 ロードバンにすねを蹴っ飛ばされて、リオネルはわりかし痛そうに顔をしかめていた。


「ちょうどポポじいさんが目覚めたのではな、聖女の様子はどうかと見にきたのじゃ。ほうほう、なるほど、お嬢ちゃんがチューリも絶賛する聖女ミーティアちゃんね」

「気安く『ちゃん』付けするなよな」


 リオネルが脛をさすりながら目を据わらせる。

 ロードバンはそれをきっぱり無視して、ほうほうほう、とミーティアをためつすがめつ見つめた。


「なるほど、なるほど。可愛い子じゃないか。ちょっとつり上がった強気そうな目元が好みじゃ。ここも大きいしの」

「それ以上言うなら目ン玉をほじくるぞ、ジジイ」

「ほほほ~う、嫉妬かね、騎士隊長? 君もまだまだ青いのう~」


 ロードバンが「ここ」と言いつつ自分の胸の前で手を丸く動かしたのを見て、リオネルはわりと本気で怒った顔をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る